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根本 匠ねもと
たくみ

衆議院議員

福島第2区

(郡山市・二本松市・本宮市・大玉村)

特別編集
厚生労働大臣
344日間の軌跡
未来への布石
全世代型
社会保障改革に着手

 令和元年(2019年)10月、消費税率が8%から10%に引き上げられた。同時に、年金生活者支援給付金の支給や所得の低い高齢者の介護保険料軽減、介護職員の処遇改善などが図られ、2025年を念頭に進めていた社会保障・税の一体改革は一区切りを迎えることとなった。次に見据えるのは、「現役世代」が急減する2040年である。
 厚生労働大臣就任まもない10月22日、省内に自身を本部長とする「2040年を展望した社会保障・働き方改革本部」を立ち上げ、「全世代型社会保障制度」の検討を本格化させていった。
 その過程で、根本は、社会保障・働き方改革を厚生労働行政の分野だけで考えていくのではなく、ウイングを広げる狙いから、「厚生労働省政策対話」を行った。選んだ政策対話のテーマは、「農福連携」「住宅政策」「金融政策」「健康な食事」「創薬」の5分野である。各分野の第一線で活躍する方々を大臣室に招き、具体的な取り組みについて率直な意見交換を行った。
 こうした議論のゴールとなったのが、令和元年5月の同本部である。第一の柱は「多様な就労・社会参加」。2040年の人口構造に対応し、我が国の成長力を確保するためにも、より多くの人が意欲や能力に応じ、より長く活躍できる環境整備を目指す。70歳までの就業機会の確保などのほか、就職氷河期世代の支援も含まれる。第二の柱は「健康寿命の延伸」。通いの場の拡充や、ナッジ(nudge)の考え方を活用した取組などである。第三の柱は「医療・福祉サービス改革」。医療介護分野でのロボット・AI・ICT等の実用化推進、データヘルス改革、タスクシフティングやシニア人材の活用推進などである。

令和を拓く社会保障

 根本は、2040年を展望した令和の社会保障政策には「安心」「活力」「成長」の3つの機能があると考えている。
 一つ目は「安心」。社会保障は国民生活のあらゆる場面を支えるセーフティネットである。特に近年、女性のライフスタイルが変わってきており、女性の就業率も高まっている。求められるのは男性の育児参加だ。子どもは「社会の宝」。社会全体で子どもを大切にし、支援する必要がある。
 二つ目は「活力」。これから求められる社会保障は、高齢や障害などの生活上のリスクを保障するだけではなく、個人の可能性を引き出す「積極的社会保障」にしなければならない。人生100年時代に向けて、誰もがいきいきと暮らし「共に支え合う存在」になる地域共生社会が目標。
 三つ目は「成長」。従来の社会保障の殻に閉じこもらず、農業、住宅、金融、食などの他分野にも幅を広げ、連携しながら、社会保障に厚みを加えていくことが経済の活力につながる。医療、介護のイノベーションも成長を促進する。「成長と分配の好循環」の中心にある社会保障の枠組みが大きくなれば、循環は質や量だけでなく、速度さえ上がっていくだろう。
 経済と社会保障は根本のライフワークである。国民生活の安心を確保し、強い経済も実現する。根本にとって、それが新しい「令和の御世の国づくり」と信じているからだ。

介護効率化への取り組み

 介護現場の人手不足は深刻である。現場の負担軽減も喫緊の課題だ。厚生労働省は平成30年(2018年)12月、業界団体と行政が一体となって検討を進める「介護現場革新会議」を立ち上げ、根本はこの会議に期待を寄せた。
 「介護現場革新会議」が平成31年(2019年)3月にとりまとめた「基本方針」は、業務の洗い出しと切り分け・役割分担、周辺業務における元気高齢者の活躍、ロボット・センサー・ICTの活用、介護業界のイメージ改善などを柱とし、今後の取り組みへの希望が感じられる内容であった。さらに令和元年度からは、福島県を含む7自治体で「介護現場の革新に関するパイロット事業」がスタートしている。

「共生」を前面にした認知症施策

 認知症の人は平成30年に500万人を超えた。認知症は誰もがなり得る。家族や身近な人が認知症になることなども含め、多くの人にとって身近なものになっている。海外では、英国などのように認知症施策を国家プロジェクトとして取り組んでいる国もある。根本は、先進国の中でも急速に高齢化が進む我が国も、国を挙げて認知症への取組を進めていく必要があると考えていた。  当事者と触れ合い、生の声に耳を傾ける。これは、根本が政治家として新人議員のころから大切にしてきたことである。日本認知症本人ワーキンググループ(JDWG)の方々と懇談した際の「認知症になってからも希望を失わず、自分らしい暮らしを続けていける社会を創るために、本人として力を尽くしたい」「『認知症でもできる』ではなく『認知症だからこそできる』ことがあることを伝えていきたい」という言葉が根本の心に強く残った。
 政府としての認知症施策推進大綱をまとめるにあたり、政府内には認知症の「予防」を重視する取組を志向する声もあったが、当事者からは不安の声が上がっていた。根本は、胸に刻んでいた当事者の言葉をもとに、認知症の人とそうでない人とが同じ社会でともに生きるという「共生」の基盤に立って進めることが大前提であるという姿勢を明確に示した。大綱が取りまとめられた直後、根本は再度JDWGの方々と懇談し、「共生」を重視することを直接伝えた。認知症施策には、当事者の気持ちに寄り添う、根本の政治姿勢が表れていた。

就職氷河期世代を強力支援

 平成31年(2019年)4月の経済財政諮問会議では「就職氷河期世代」の支援に向けた取組の必要性がテーマとなり、安倍総理は、就職氷河期世代の方々の活躍の場をさらに広げるための集中プログラムの作成を指示した。
 根本は、長く就労から遠ざかっている人たちの支援を地元郡山市で行っている方々と交流があり、就職氷河期世代の支援には「単に就労支援をするだけではなく、就職から遠く社会参加に向けた取り組みが必要なひきこもり状態になる人など、一様ではない取組が必要だ」と常々感じていた。
 就職氷河期世代の支援ということになれば、雇用分野から福祉分野まで非常に幅の広い政策対応が必要になる。根本は、毎回10人前後の担当職員とブレーンストーミングを繰り返した。根本の問題意識を受け止め、支援の在り方を大臣に提案する職員。このブレーンストーミングの成果が、「厚生労働省就職氷河期世代活躍支援プラン」として結実した。不安定な就労状態にある方に対してはハローワークでの相談の強化や職業訓練の充実など安定的な就労に向けた施策、長期にわたり無業の状態にある方に対しては地域若者サポートステーションの対象年齢を拡充するなど就職支援実現に向けた基盤整備、社会参加に向けて支援を必要とする方に対してはひきこもり支援や相談体制の強化など、きめ細かた施策を丁寧に設計した。

児童虐待防止対策を強化

 平成30年(2018年)3月、東京都目黒区で5歳の女児が父親からの度重なる虐待の末に亡くなるという痛ましい事件が起こった。これをきっかけに政府は児童虐待防止対策の強化に乗り出す。平成30年の年末に向けて児童相談所の体制強化を検討し、児童相談所の児童福祉司を5年間で2,000人増員する「児童虐待対策体制総合強化プラン」を取りまとめた。
 さらに、年明け1月、千葉県野田市で10歳の女児が父親の苛烈な虐待の末に亡くなる事件が起こった。これに対して、間髪入れずに対策の徹底・強化を実施するとともに、第198通常国会に児童虐待防止法の改正法案を提出した。この法案は通常国会の最重要法案のひとつとして白熱した審議が行われ、令和元年(2019年)6月に可決成立した。

女性活躍をさらに後押し、パワハラ対策も法定化

 第198通常国会には、女性活躍をさらに後押しするため、行動計画の策定を義務付ける企業の範囲を拡大するなど内容を盛り込んだ女性活躍推進法の改正案を提出した。この法案には、併せて、パワーハラスメントに関する対策も盛り込まれていたためメディアの報道では「パワハラ法案」と呼ばれていた。事業主に対してパワハラ防止のための雇用管理上の措置義務を課すほか、国、事業主及び労働者の責務規定を設けハラスメントを行ってはならない旨を明確にする意義のある改正であった。

"アンチ厚労省"も評価 待機児童のタイプを自治体ごとに分析

 少子高齢社会に対応する施策の中で、子ども・子育て支援、とりわけ待機児童対策は、極めて重要性が高い。マスコミで取り上げられることも多く、国会での質問も頻繁だった。
 厚生労働省は、令和元年(2019年)9月、同年4月時点の待機児童数を発表した。前年より3,000以上減少しており、例年通りの発表なら、待機児童の数が大幅に減っていることを強調するだけにどどまるが、根本は、事前に担当者に「待機児童の状況は自治体ごとに違う。マクロの数字の増減だけ見ても意味がない」と指摘、地域ごとの分析結果を合わせて公表するように指示していた。地方自治体の状況は一律ではない。こうした本質を意識して施策を進めることも、根本の政治姿勢の一つである。
 発表の際には、待機児童が存在する自治体について、①待機児童を大きく減らした自治体、②申込者が見込みを上回り、待機児童が増加した自治体、③待機児童が横ばいの自治体-の3つのタイプに分類し、タイプに合わせた支援策を一緒に公表した。
 その直後、厚生労働省に対し厳しい論調を掲げる新聞の社説に次のような一節があった。「厚生労働省は新たな支援策も打ち出した。保育ニーズの見込みより申込者が多かった自治体や、待機数がなかなか減らない自治体などに個別の対策支援を実施する。自治体任せにしない点は理解するが、対象となる自治体は多い。きめ細かい支援ができなければ実効性はおぼつかない。全体では待機数は減ったとはいえ222自治体で逆に増加している。増加要因の分析や支援は欠かせない」(9月11日東京新聞)
“アンチ厚労省”もこの取組を評価したのだった。

看護師にエール

「Nursing Nowキャンペーン」は、ナイチンゲール生誕200年に合わせて展開された看護職への関心を深め地位向上させるための世界的キャンペーンであった。根本は式典の話を事務方から聞くや自ら式典に出席してあいさつすることとした。この機会に、看護職の皆さんに伝えたい思いがあったからだ。それは、我が国の医療、社会保障の発展には看護職の多大な貢献があったこと、そして、看護職の皆さん一人一人が自身の社会への貢献の大きさを認識し、専門職としての自覚とプライドを持ち、さらなる活躍をしてほしいという思いである。地元で看護職の方々の職業意識の高さと熱意に触れるたびに、そうした思いを強くしていた。
 根本は、生き生きとした看護師の話を聞くのが好きだ。看護師に活力がある病院は、まぎれもなく良い病院である。看護師が活躍できる環境をしっかりと整えていくことに、根本は力を尽くしたいと考えている。

医師の働き方改革

 平成30年(2018年)の通常国会で成立した働き方改革関連法で残された大きな宿題である「医師の働き方改革」。厚生労働省では、医療政策と医師確保対策を担当する医政局と、労働基準施策を担当する労働基準局が一体となり、この課題に取り組んできた。根本も時間ができれば医療機関を回り、医師不足の現状や電子カルテなどのデータヘルス改革についての取り組みなど、施策に関する意見を聞く機会を設けてきた。
 医師の働き方改革を考えるにあたって、医療サイドの変革だけではなく、患者サイドの意識変革も欠かすことができない。そこで根本は平成30年(2018年)10月5日、「上手な医療のかかり方懇談会」を立ち上げた。この懇談会での議論は、12月に「『いのちをまもり、医療をまもる』国民プロジェクト宣言!」としてとりまとめられている。
 我が国の医療は、医師の高い職業意識と自己犠牲的な働き方によって支えられており、医師の働き方改革は重要だ。一方で、根本は病院関係者と対話する中で、医師の時間外労働なくして地域医療が成り立たない実情も耳にしていた。根本は、現場の立場に立ち、様々な施策を連携させる必要性を最も意識していた。医師の時間外労働の上限規制を設けるとともに、病床機能の機能分化や連携の推進、地域や診療科ごとの医師の偏在対策も併せた複合的な取り組みが必要不可欠だ。令和元年5月の経済財政諮問会議で、医師の働き方改革、地域医療構想の実現、医師の偏在対策を「三位一体」で取り組む方針を打ち出した。その方針は「骨太の方針2019」に取り入れられることになった。

浸透する「匠方式」2
「単線型の想定問答」には駄目出し
直接質問されていない基本認識や参考資料のポイントを(注)として記載させ、画一的な答弁書を実践的なものに変えていった。

 国会の委員会質疑があるとき、事務方は委員会での野党との論戦に備え「想定問答」を作成する。大臣は委員会審議当日の早朝、事務方から説明を受けるのだが、連日、大量の想定問答に目を通すたびに、根本は違和感を覚えていた。想定問答の大半が「問」に対する直接の「答」しか書かれていない「単線型の想定問答」だったのだ。
 さらに、関連する資料は、1〜2枚くらいの答弁とは別に「参考資料」として添付されているだけだった。これでは野党議員との論戦が白熱している状況で、大臣自ら参考資料をめくりながら答弁に必要な情報を探し当てるのは容易なことではなかった。
 国会における質疑応答では、どんな質問に対しても、基本的なことについては必ず言及しなければならない。質問に対する直接の答弁だけだと、政府側の趣旨や本当にやりたいことが十分に説明できない。しかも、野党議員からの質問は想定通りとは限らない。施策テーマの基本認識に関わる質問を事前に通告していた質問の導入として聞いてくることもあるし、答弁した予算事業の内容を踏み込んで聞いてくることもある。
 根本は、「単線型の想定問答」には決まって「これでは不十分」と駄目を出した。答弁には直接の答だけではなく、直接聞かれていないものの答弁の大前提である施策そもそもの考え方や背景等を書き込ませた。さらに、従来なら資料を添付するだけだった「参考資料」のエッセンスを、答弁本文の下に少し小さい字で(注)の印をつけ記載させた。根本の答弁には(注)が5、6個に及ぶものもあった。これで初めて二の矢、三の矢の質問にも即時に対応できるようになった。
 事務方から見ると面倒だと思うこともあったかもしれないが、大臣と野党議員の白熱したやり取りを現場で見守る若手職員たちは、根本が駄目出しをする理由が次第に分かっていった。根本は、画一的だった答弁書を実践的なものに変えていったのである。そして、この実践的な答弁書も「論点ペーパー」と並ぶ匠方式の代表の一つとなっていった。