総理補佐官「最初の100日(First Hundred Days)」
10月 ゼロからのスタート
総理補佐官は文字通り、総理を補佐するために、総理の目となり耳となり、情報を収集、助言・進言することが重要な仕事です。盟友である安倍総理を十分サポートするためも、経済財政という幅広い業務を手がける上で、今回の総理補佐官制度はゼロからのスタートでした。官僚の政策実施能力を束ねるだけでなく、民間の優れたアイディアを取り入れ、「複線型」の政策決定を可能にするためにも、中枢機能を担うスタッフが必要となります。そのためにも、各省庁から10名あまりの有能な人材を集め、早速仕事を開始しました。こうしたスタッフに対しては、私の理念・考え方・政策実現のための手法を理解してもらうために、徹底した「闘論」とブレーン・ストーミングを行いました。民間ではすでに手がけられていますが、意志決定を迅速にすると同時に、幅広いアイディアが自由闊達に議論できるための仕組みとして、フラットな組織編成にしました。幹部級のスタッフから、20代の若手まで、私が直接指示し、報告を受けるスタイルを採用しました。こうした点でも、安倍政権の下でのスタイルは斬新であり、まさに「官邸イノベーション(革新)」といっても良いと思います。
このように走りながら陣容を整えつつ、まず手がけたのは安倍政権の重要な政策の柱である「アジア・ゲートウェイ構想(アジア各国との連携強化策)」の推進です。単にスタッフに任せるだけでなく、構想を具体化し、優先順位をつけるためにも、「100人連続ヒアリング・マラソン」と銘打ち、私自身が直接有識者とつっこんだ意見交換を行いました。その相手は、第一線で活躍するビジネスリーダー、各分野で先端的な取り組みを行っている研究者、意欲的な提言を行う大学関係者など多彩で、就任後100日までの間に、私とスタッフが行った意見交換の相手はすでに120人を超えています。
11月 ゲートウェイ戦略会議本格化と海外での意見交換・情報収集
11月8日に第1回のアジア・ゲートウェイ戦略会議を議長の安倍総理の下で開催しました。伊藤元重座長をはじめ、各界で活躍する第一級の有識者をメンバーに迎え、議論を行いました。ともすれば予定調和に陥りがちな、従来型の審議会とは異なり、「進化するゲートウェイ」というスローガン野下、各委員とは頻繁に意見交換を直接行い、ゲートウェイ構想の具体化・精緻化を行いました。その課程では、立命館アジア・太平洋大学のモンテ・カシム学長、一橋大学大学院の石倉洋子教授といった、人材育成・国際交流の面で先端的な試みを行っている方々とも活発な意見交換を行っています。
また、11月下旬には、ゲートウェイ構想をより明確にするとともに、安倍政権の経済政策をアピールするために、インド、シンガポールに出張しました。インドでは、世界のリーダーが集うダボス会議(毎年1月にスイスで開催)の主催者が開く、「インド経済サミット」にパネリストとして出席しました。この会議は、世界各国の政財官界のリーダーが約500名が参加する大規模な会議で、その中心的なパネルにおいて、私からは、シン首相の訪日を間近に控えた日印関係の今後や、安倍政権の経済政策について発言しました。
会議の前後では、シン首相を表敬するとともに、日印EPA(経済連携交渉)で重要な役割を担うナート商工大臣と意見交換を行ったほか、シン首相の右腕であるアルワリア国家計画委員会副委員長とも、成長著しいインド経済及び日本との将来の関係につき大いに議論しました。ちなみに、私はインドでは「日本のアルワリア」と呼ばれているらしく、インドの財界人はその説明を聞いて、日本の総理補佐官の仕事について理解を深めている様子でした。さらにインドでは、日本のODAで建設され、非常に評価の高いデリーメトロ(地下鉄)の現状や、インドのIT産業、インドのIT人材を輩出しているインド工科大学も訪れ、ゲートウェイ構想を具体化する上での様々なアイディアを得てきました。
シンガポールでは、リム運輸大臣兼第二外務大臣をはじめとする政府関係者と意見交換を行ったほか、「現場主義」に基づき、IT技術を活用し世界最先端の水準を誇るシンガポールの港湾設備も訪問し、関係者と議論してきました。また、有能な人材を獲得するためにシンガポールが進めている「教育ハブ」構想の一環である、欧米のビジネススクール誘致の現状についても、実際に大学施設を訪れた上で意見交換を行いました。
さらにシンガポールでは、同国有数の知識人であるトミー・コー政策研究所所長(兼国遺産庁長官)と、ゲートウェイ構想の具体的なアイディアについて、大変活発な議論を行い、きわめて有意義なひとときを過ごしました。コー所長は、日本の魅力を対外的に発信するというゲートウェイ構想のアイディアに非常な関心を示していました。とくに、最近話題となっている、アニメやマンガといった日本のポップカルチャーだけでなく、日本の伝統的な文化についても、世界の関心は高いので、是非ともアジアにも発信していくべきだと話されていたのが印象的でした。シンガポール自身は、独立後40年あまりの若い国であるといったことも、こうした伝統文化に対する関心の高さに関係があるのかもしれません。コー所長とは非常に意気投合しましたので、この打ち合わせを「海外版ゲートウェイ戦略会議」と呼んでも良いくらいだと思ったほどです。
12月 ゲートウェイ構想本格化
12月の官邸は非常に忙しくも充実した1ヶ月でした。安倍総理から具体的に指示されていた社会保険庁改革についても、総理のリーダーシップを支えるための仕事を行うとともに、ゲートウェイ構想の基本的な考え方をまとめることができました。
ゲートウェイ構想については、日本国内だけでなく、海外でも関心が高いようです。たとえば中国語のインターネットのウェブサイトでは、アジア・ゲートウェイ構想(中国語では「亜州門戸構想」「亜州通道構想」といった書き方をするとのこと)については、各種ニュース記事などがすでに70件近く掲載されているようです。また、私のインド訪問も、インドのシン首相訪日の直前、中国の胡錦涛国家主席の訪印直後に行われたことからも、中国国内においては、日本とインドの戦略的な関係強化の一環と見られたようでもあります。
来年も引き続き忙しくも充実した年になると思います。日本の政権が経済成長を政権の主要課題として打ち出したことは、「失われた10年」の前後からも久しくなかったことです。安倍政権の下で、本格的な「創造と成長」を達成し、新しい国造りを実現するためにも、来年もゲートウェイ構想をはじめ、経済財政の幅広い分野について、全力で総理を補佐します。