「正しく恐がる」
放射線リスクに関する基礎的情報
東京電力福島第一原子力発電所事故により県内外で避難を続けている方々の安全・安心対策を進めていく上で、一番大事なことはリスクコミュニケーションである。「国の説明は、『安全です』と言うだけ。有識者の説明も『安全』と言う人もいれば、『危険』という人もいる。何が正しいのか分からない」。復興大臣の根本匠は、福島の被災地を視察するたびにこうした話を聞かされる。放射線の健康への影響など「リスク」を分かりやすく説明し、放射線に関する疑問や質問に丁寧に答えるという双方向の「コミュニケーション」に積極的に取り組む必要がある、と痛感した根本は、事務方が持ってきた関連資料を見て唖然とした。放射線の問題は、農産品や飲料水、環境の測定値、健康影響等々、所管する官庁が分かれており、当時の資料は関係する省庁の説明を寄せ集めたもので、しかも辞書のような分厚さだったのだ。
根本は、早速事務方に対し、関係省庁と連携して分かりやすく系統立って整理された資料を作成するよう指示したが、省庁数が多く「この表現を変えてしまうと、あっちは良くてもこっちの観点から問題がある」といった具合に調整がつかず、検討作業が難航する。その間、根本自身も関連文献を読みあさり、専門家から直接話を聞き、1986年に世界最悪の原発事故が起きたウクライナのチェルノブイリ原発にも足を運ぶ等、独自に検討。放射線については、「いかに正しく怖がるか」がポイントで、そのためには放射線に関するリスクコミュニケーションが非常に重要であることを再確認する。そこで、復興庁内にこの問題に詳しい職員を増強し、様々なリスクコミュニケーション活動のベースとして活用してもらうための「情報」をコンパクト、かつ分かりやすくまとめた資料の作成を指示。根本も議論に参加し、自らも手を入れた。平成26(2014)年2月、「放射線リスクに関する基礎的情報」が完成する。末尾には、意見を聞いた50人以上の専門家の名前も掲載した。
放射線に関するリスクコミュニケーションを進めていく際に重要なことは、客観的で正しい情報を基に「正しく怖がる」ことだ。放射線のリスクについて、「放射線リスクに関する基礎的情報」でまとめた内容や専門家の話を総合すると、少なくとも次のような点は明確になっている、と根本は指摘する。