衆議院議員 福島2区(郡山市、二本松市、本宮市、大玉村
2002.01.15

新しい政策課題と政治家の役割 - 3

金融危機で功を奏した「政治主導」の政策形成

3.日本経済再生の処方箋−「政治主導」で立案した3つのトータルプラン−

前項で述べたように、私たち自民党の若手議員は、「政治主導」で「土地・債権流動化トータルプラン」と「金融再生トータルプラン」を策定、この2つのプランで示した諸施策を実行に移すことで金融危機を乗り切った。

ここでは、その後に策定した「日本経済サバイバルプラン」も含め、3つのトータルプランについて解説する。

まず、「土地・債権流動化トータルプラン」だが、このプランのポイントは、入り口から出口まで総合的に機能するよう、4つの仕掛けを用意したことである。

1つ目のポイントは、債権債務関係をスムーズに処理するための方策を明確に示したこと。入り組んだ権利関係をすっきりさせるために、競売制度の改善や、弁護士に限定されているサービサー(債権回収専門業者)業務の開放、複雑な権利関係を解きほぐすための不動産権利関係調整委員会の設置などの方針を打ち出した。

ここでは、不良債権や担保不動産の現在価値を計り、焦げ付き額を確定するため、欧米では当たり前のデューデリジェンス(適正評価手続き)という概念を初めて導入した。

サービサー業務の開放は、資金の回収代行業を民間業者にも認めようというもので、「サービサー法(債権管理回収業に関する特別措置法)」を制定。これまでに約50社設立され、元本約36兆円の債権を取り扱い、約1兆3880億円を回収している。

また、バルクセールの開始や担保不動産の売却強化など共同債権買取機構の機能を拡充、回収率はこの3年間で30%(98年)から80%(2001年3月末)に上昇している。

このほか、証券の発行・管理を行う特別目的会社(SPC)を活用して不良債権を小口証券化し売りやすくするために、SPC法の制定方針を打ち出した。

2つ目のポイントは、虫食い状態になった土地を整形・集約し、都市再開発を促進する施策を盛り込んだこと。ここでは、住宅・都市整備公団の活用がメインテーマとなり、その後、同公団に3,000億円の公的資金が出資金の形で投入された。

3つ目は、都市の再構築のための公的土地需要の創出。国の補助を中心に福祉や防災、住宅、市街地活性化など総合的な政策により土地需要をつくりだすための施策を盛り込んだ。

そして4つ目が、再建型倒産法制を整備する方針を打ち出したことである。

従来からある和議法と会社更生法も「再建型」の倒産手続きだが、和議法は、企業が破産状態にならなければ利用できず、また、会社更生法は、大企業向けの重装備な手続きで再建計画の立案まで時間がかかりすぎるなど、いずれも使い勝手が悪く、幅広い企業が活用する「再建型倒産法制」としては十分な機能を果たしていなかった。

そこで私たちは、米国の法制(チャプター・イレブン)を参考にして、企業が債務超過などに陥る前に再建手続きに入り、しかも迅速な再建が可能となる「再建型倒産法制」を早急に整備するよう提言。「急げ」という要求に法務省が応えてくれ、1999年12月に民事再生法が制定された。

なお、このプランには、不良債権の実態解明から担保不動産の有効利用や不動産取引の活性化までの各種施策のタイムスケジュールを明示。盛り込まれた施策が計画倒れにならないよう工夫を施した。

この「土地・債権流動化トータルプラン」が、抜本的な不良債権処理の第1ステージとすれば、続いて策定した「金融再生トータルプラン」は第2ステージである。

私たちは、このプランで金融構造改革の断行に向け総合的な処方箋を示した。

具体的には、金融機関の合理化・再編などの構造改革を促すため、(1)不良債権の公表と適正な償却・引き当て(2)金融監督庁※による公正・透明な金融行政の実現と、早期是正措置に基づく検査・監督行政の強化(3)金融機関のリストラを進め、経営の健全化を図る(4)金融機関の破綻処理スキームを早急に確立、ブリッジバンク制度を創設する−−などの方針を打ち出した。

(※) 金融監督庁(現金融庁)が発足したのは1998年6月。それ以前の金融行政は大蔵省が所管していたが、大蔵省に財政と金融の権限が集中し、弊害を生んだとの反省から、金融の検査・監督部門などを大蔵省から切り離し、総理府の外局として発足することになった。

私たちが練り上げた「金融再生トータルプラン」の政策スキームは、直後の臨時国会(「金融国会」)への金融再生6法案の提出により具体化が図られることになったが、与野党の修正協議で金融再生法と金融早期健全化法へと姿を変えたことは、前項で述べた通りだ。

野党側は、金融再生法に盛り込まれた「一時国有化(公的特別管理)」のスキームについて「政府・自民党は野党案を丸呑みした」と喧伝したが、私たちが提出した法案にも普通株の取得による国有化のスキームは入っていた。「金融国会」で成立した金融再生法の土台となったのが、「時間との戦い」の中で短時日で私たちが策定した「金融再生トータルプラン」であることは紛れもない事実である。

ともあれ、金融再生と早期健全化の2法の下で日本長期信用銀行と日本債券信用銀行を破綻処理、大手銀行に資本注入が行われ、極限に近づいていた金融危機をひとまず封じ込めることができた。

私たちは、2つのトータルプランによって、日本経済の再生に必要な処方箋の8割を示すことができたと自負している。金融機関による不良債権の処理は、この3年間で10兆円に上る直接償却が行われるなど、一部では進展も見られた。

だが、その一方では、開示基準適用の厳格化が進み、また経済情勢が悪化したこともあって新たな不良債権も増えている。金融機関の取り組みも十分とは言えず、大きな悔いが残った。

1つは、不良債権の正確な把握ができていなかったせいでもあるが、事態の深刻さに対する政治家の認識が不十分だったという反省だ。

そして、もう1つは、メディアも含め世論の関心が銀行の破綻処理と公的資金の注入だけに関心が集まり、金融再編の華やかさにも惑わされて、不良債権問題の本質を見失ってしまったことである。

たしかに大手銀行への公的資金注入はやむを得ない選択であった。しかし、返済の義務があるにせよ公的資金の支援を受ける以上、銀行はその間に不良債権の抜本的な処理進め、なおかつ経営責任の明確化や大胆なリストラで事態をここまで悪化させたツケを払うべきだった。

当時の小渕政権は、景気の回復を最優先課題に掲げ、大型減税や公共投資の追加策などによる総需要政策を強力に推進。中小企業向けのセーフティーネットとして20兆円(その後、30兆円に拡大)の特別信用保証枠を設けるなどの措置も講じ、公的資金による資本注入で不良債権処理の原資にゆとりのある状況下で、大手銀行が不良債権の抜本処理に取り組む環境が整っていた。

にもかかわらず、資本注入で一息ついた大手銀行は、抜本的な対策を講じることなく、安易と思われる債権放棄を行い、「政」も「官」もこれを看過した。この2年余に及ぶ「空白」は大きい。その間に銀行が不良債権の抜本処理を進めたら、今日の危機的状況を招くこともなかったはずだ。

金融システムを立て直すために注入した公的資金が、皮肉にもモラルハザードを助長し、なし崩し的な問題の先送りが日本経済の混迷に拍車をかける結果となったことは、返す返すも残念である。

しかし、こうした先送り策は限界に近づいており、事態のさらなる悪化をこのまま座視するわけにはいかない。

不良債権問題がようやく最終段階に入ろうとしている今、「土地・債権流動化トータルプラン」、「金融再生トータルプラン」に続く、日本経済の再生に向けた総合戦略のファイナルステージづくりに着手する必要がある。しかも、強力な政権での政治主導の下、3年以内に迅速に進めていく必要がある。

森内閣の退陣が秒読み段階に入った今年春、党内のサポートもなく、提案すべき相手(次期総理)もまだ分からない段階で、私と石原伸晃衆院議員は「まだ見ぬ総理」への政策提言とすべく作業に取りかかった。

そして、不良債権の実態解明、土地・債権のさらなる流動化、金融システムの再生、産業の再生、資産デフレなどの施策を総合的に網羅した戦略を急ピッチでまとめ上げた私たちは、「日本経済サバイバルプラン−負の連鎖を断ち切るために−」と命名した。以下、その概要を紹介する。

(1)厳しい自己査定と引当の厳格化−不良債権の実態に対する信認の回復−

マーケットは、金融機関が、特に問題企業について経営状況を十分に把握してないために破綻懸念先であるべき企業を要注意先としているのではとの疑念を拭えない。そこで、こうした疑念を払拭するため、特に要注意先債権に着目し、産業を取り巻く経済状況を踏まえた厳正な債務者分類と引当を実施。さらに実効性を高めるため、厳正な外部監査を求めるとともに、金融庁による再検査を速やかに実施する。

(2)不良債権のオフバランス化−実質処理である直接償却の推進−

a)期限を切った不良債権のオフバランス化の推進

まずは、金融機関自らによる不良債権の実態把握とそれに基づく厳しい自己査定・引当の厳格化を求めることを前提に、金融庁による再検査を速やかに実施することで破綻懸念先債権を確定し、期限を切ってオフバランス化を推進する。

不良債権の直接償却は、1)法的整理(民事再生法、特定調停法、会社更生法など)、2)私的整理(債権放棄)、3)債権売却、の3つの手段から債務者の実態に最も適した手段を選択する。

b)債権債務関係の処理の円滑化

サービサー法を改正して対象債権を拡充、ノンバンク債権やSPCなどで流動化・証券化されている金銭債権、破綻企業の金銭債権を新たに加える。

c)整理回収機構(RCC)の機能強化−米国型RTCへの脱皮−

これまで整理回収業務として約4兆円の買い取りを実施、うち半分弱を回収するなど不良債権処理に貢献したきたRCCが、その人材とノウハウを活かし、健全行を含む金融機関の不良債権全般に関わる新たなサービサー機能を発揮できるよう機能を強化する。

d)債権放棄ルールの確立−真の企業再生の視点に立った新たなルールの創設−

私的整理(債権放棄)については、モラルハザードが起きぬよう社会的公正性を担保した上で、その企業が真に再生するかとの「企業再生」の観点を加えた新しい基準を創設。その税務処理を一層明確化し、産業全体に及ぼす甘い再建計画を認めない。

(3)産業再生−産業・企業の構造改革−

非製造業を中心とした債務超過群の存する産業の再生を図る。

a)企業再建法制の拡充・活用

新たに制定された民事再生法、特定調整法などの制度を広くPRし、積極的に活用する。
企業再生の観点から民事再生法、特定調整法などの制度改善を実施する。
再建途上企業に必要な運転資金などの確保を図る観点からDIP(Debtor-in-Possession)ファイナンスを促進する。

b)産業再生法の拡充−非製造業を中心とした債務超過企業に対する措置の創設−

制定時に債権放棄を想定していなかった産業再生法の適用を拡充し、非製造業も含め、債権放棄を契機とした産業の再編・効率化を推進するとの“新たな認定基準”を策定するとともに、基準を満たす債権放棄については無税償却を適用する。

モラルハザードを防ぐ観点から、借り手企業の経営者責任・株主責任を明らかにするとともに、合理的な再建となるよう有利子負債を10年以内(業態によっては5年以内)に返済することを原則とする。

c)過剰債務(構造不況)業種に対する産業政策の新たな視点

数年後に迫った減損会計の導入を控え、バブルの後遺症を抱えた企業について、企業再建手続きである民事再生法、産業再生法を積極的に活用する(流通、不動産、建設など)。

産業再生法の適用にあたっては、新たに策定する認定基準の円滑な運用を図るため、経営者・貸し手・株主の責任の厳格化を前提に産業の再生と優良企業の再生を推進する「産業再生委員会」の創設を検討する。

(4)土地の流動化と都市再生の推進、資産デフレの是正

資産デフレの是正と都市再生の観点から、さらなる土地・債権の流動化を推進する。

a)サバイバルファンドの創設・ABS市場の整備

金融機関が保有する不良債権とその担保不動産を塩漬けにすることなく、市場に放出することで底値を形成するための受け皿として「サバイバルファンド」を創設する。ファンドはそれらの不良債権・担保不動産を取得した上で証券化することにより、市場メカニズムを働かせるとともに、我が国のABS(資産担保証券)市場を育成・形成することで、不良債権の抜本処理を促進する。

投資家の投資判断に資する不動産投資インデックスを整備する。

b)時限的かつ大胆な不動産流通課税の減免

土地の流動化を図るため、不動産取得課税、登録免許税などの不動産流通課税について、3年に限ってゼロ税率を適用する。

c)メトロポリタン創生会議の創設

国の立場から大都市創生を強力に推進する組織として「メトロポリタン創生会議」を創設。羽田空港の大幅拡張による国際化・24時間化、横田基地の返還による首都圏第3空港化などのプロジェクトを推進、経済波及効果の大きい都市部への集中投資により都市を再活性化し、景気回復への起爆剤とする。

都市開発の専門的なノウハウを有する都市基盤整備公団の役割を強化、大都市の再生を推進するため、土地有効利用事業などについて出資金比率を100%に引き上げる。

d)RCCの保有不動産の売却促進

ノウハウの乏しいRCCの保有不動産について、地方公共団体、民間事業者、公団からの人的支援や共同開発を行うことにより、その付加価値を推進するともに、売却を促進する。

(5)マクロ経済政策による補完

a)日銀による金融緩和措置−不良債権の抜本処理を側面支援−

抜本的な不良債権の最終処理を断行する際には、経済に対するマイナス・インパクトは不可避であり、マクロ経済政策による補完が不可欠。

b)新たな流動化促進型の雇用政策の推進

▼緊急雇用創出

構造改革に伴い離職者が急増した場合、臨時・応急の措置として、国・地方など公的部門における臨時雇用(教育、福祉、環境など)や民間のトライアル雇用により100万人規模の雇用創出を図る。

▼雇用流動化(再就職支援)策

雇用対策法の改正による再就職支援計画の活用(民間の再就職支援会社の活用など)。

▼新産業・雇用創出

新産業や成長産業を中心とした雇用創出対策を推進。

▼人材育成

労働市場における価値を高めるため、バウチャー制度の活用などにより人材育成を推進。中高年失業者に重点を置いた教育訓練の実施。

▼ワークシェアリング

日本型ワークシェアリングの実施。

▼雇用保険の延長

構造改革の痛みを和らげるために雇用保険を一定期間延長、能力開発の義務づけや職業紹介を拒否した場合の減額措置を講じることを条件化。

このサバイバルプランは、3月9日に決定された与党3党の緊急経済対策で、経済の再生への道筋が見えてこなかったため、その対案として策定したものである。

与党の対策から1カ月後、政府は与党案をベースに関係省庁の担当者たちに肉付けさせたものを政府の緊急経済対策として発表したが、「官僚主導」の政府の対策よりも私たち2人の政治家が策定したサバイバルプランの方が遙かに優れていると自負している。

日本経済の再生を阻んでいる不良債権をちゃんと処理するには、「不良債権のオフバランス化」を着実に進めていく以外に道はない。

私たちのサバイバルプランではそのための方策として「土地・債権流動化トータルプラン」で実現したサービサー法の改正や、不良債権の整理・回収業務を手がけるRCCの機能強化などを提言、幾つかの施策については具体化の作業が進んでいる。

まず不良債権処理問題では、政府が9月21日に決定した「改革先行プログラム」にRCCの機能強化や、回収に注意を要する要注意先債権への適切な引き当てを目指した特別検査の実施方針が盛り込まれた。

また、安易な債権放棄によるモラルハザードを防ぐ狙いから、債権放棄について厳格なルールを設けるよう提言したが、その後、全国銀行協会や経団連などが「私的整理に関するガイドライン(指針)研究会」を発足させ、債権放棄のガイドラインが策定された。

不良債権処理の期待も込められた不動産投資信託(日本版REIT)の取り引きも9月からスタート。株式相場に対する投資家心理が悪化する中、比較的高い配当利回りを期待する機関投資家の関心が集まっており、日本版REITを中心とする不動産証券化市場の規模は「今後10年間で10兆円規模に育つ」と見込まれている。

このほか、資産デフレ対策として、土地税制を思い切って軽減・緩和する方向で検討が進んでおり、日銀の量的緩和が需要を支えていくことになろう。また、株式市場の構造改革も急務で、証券税制改革を実施し、個人投資家が安心して参入できる環境を整えることとした。

一方、こうした総合的な戦略を円滑に実施していくためには、前述したようにマクロ政策による補完も必要である。不良債権の最終処理など経済に対するマイナス・インパクトの強い政策を実施する際には、金融政策面でのテコ入れが不可欠だ。

日銀は、サバイバルプランが仕上がる直前(3月19日)に事実上のゼロ金利復帰を柱とする追加的な金融緩和策を決定、構造改革を側面支援する方針を示した。日銀はその後、8月と9月にも量的緩和策の拡大や公定歩合の引き下げを実施しており、今後とも適切かつ機動的な政策の運営を期待したい。

さらに、マクロ政策による補完という点では、構造改革の過程で生じる失業者の増加や、新規分野への労働移動、労働力需給のミスマッチを緩和するための雇用政策も極めて重要。サバイバルプランでは、失業者が急増した場合の臨時・応急措置を含め、包括的な雇用対策の実施を提言した。

前述したようにサバイバルプランは、抜本的な不良債権処理のファイナルステージの処方箋を示したもので、日本経済を再生させるには絶対に避けて通れない道である。

しかも、包括的に実施していく必要があるが、私たちがこれらの政策を遂行することが可能な責任あるポストに就いていなかったので、前述した2つのトータルプランのような影響力は持ち得なかった。

与党の緊急経済対策の対案として提示したという事情もあって、党内では殆ど無視されたが、週刊誌や新聞がこの政策提言に関心を示し、テレビ出演でサバイバルプランを解説する機会も得られた。党内への影響力はなかったが、マスコミを通じて不良債権問題を巡る論議に一石を投じることができたし、プラン作成の過程で議論した官僚たちのその後の政策形成にある程度影響力を行使できたのではないかと考えている。