構造改革のすべて - 2
〜歴史的意義と到達点〜
5.デフレ克服・構造改革への具体的な取り組み
〜マクロ政策とミクロ政策の適切なポリシー・ミックス〜
I. デフレ克服
(1)マクロ経済政策
構造改革を進めるためにも、デフレ克服は喫緊の課題。
デフレは貨幣的現象であることから、政府・日銀が一体となって、金融政策を総動員。非伝統的な手段も含めて、量的緩和策を強化。
財政政策についても、中長期的な財政規律を逸脱しない範囲内で、景気の下支えのために、大胆かつ柔軟に活用。
◆金融政策
デフレは貨幣的現象であることから、デフレ脱却のためには、思い切った金融緩和政策が不可欠
日銀の金融緩和策の継続・強化
- 潤沢な資金供給の継続(当座預金残高27〜30兆円)
- 長期国債の買入れの増額(月額1.2兆円、年間14兆円強のペース)
- 非伝統的手段の採用を検討(日銀によるETF、REIT購入等)
◆財政政策
財政政策については、中長期的な財政規律を逸脱しない範囲内で、景気の下支えのために、大胆かつ柔軟に活用。
平成13年度第2次補正予算:事業規模4.1兆円(国費2.5兆円)
中期的な財政規律を維持しながら、短期的に景気が過度に下振れしないよう、構造改革に資する重点分野に注力して社会資本の整備を実施。
- 都市機能の一層の高度化・国際化 0.6兆円[事業規模1.1兆円程度]
- 環境に配慮した活力ある地域社会の実現 0.7兆円[事業規模1.2兆円]
- 科学技術・教育・ITの推進 0.9兆円[事業規模1.2兆円]
- 少子・高齢化への対応 0.3兆円[事業規模0.7兆円程度]
平成14年度補正予算:事業規模は融資・保証規模を含め14.8兆円下記分野に3兆円の予算措置
- 雇用・中小企業等のセーフティネット(1.5兆円) [事業規模1.8兆円、融資・保証規模を含めて12.2兆円]
- 構造改革推進型の公共投資の促進(都市再生ファンドへの創設等)(1.5兆円) [事業規模2.6兆円]
平成15年度予算:科学技術の振興、都市再生などに予算を重点化
- 厳しい財政状況の中、経済活性化、将来の発展につながる分野への重点配分(科学技術振興費の伸び +3.9%)
- 補正予算と併せて経済活性化に向け、両年度通じて切れ目ない対応
- 当初予算:公債発行額36.4兆円(公債依存度44.6%)
平成15年度税制改正:国・地方合わせて1.8兆円の先行減税
- 産業競争力強化のための研究開発・設備投資減税(1兆740億円)と中小企業等支援の拡充(2300億円)
- 「貯蓄から投資へ」の流れを加速するため金融証券税制を軽減・簡素化(960億円)
- 土地の有効利用促進に資する土地流通税等の軽減(2100億円)
- 次世代への資産移転の円滑化に資する相続税・贈与税の一体化・税率の引下げ(最高税率70%⇒50%)(1030億円)
表4 (参考) (兆円,%) 平成5
(93)6
(94)7
(95)8
(96)9
(97)10
(98)11
(99)12
(00)13
(01)14
(02)15年度
(2003)歳出総額 75.1 73.6 75.9 78.8 78.5 84.4 89 89.3 84.8 83.7 81.8 税収 54.1 51 51.9 52.1 53.9 49.4 47.2 50.7 47.9 44.3 41.8 (税収比率) -72.1 -69.3 -68.4 -66 -68.7 -58.6 -53.1 -56.8 -56.5 -52.9 -51.1 公債発行額 16.2 16.5 21.2 21.7 18.5 34 37.5 33 30 35 36.4 (公債依存度) -21.5 -22.4 -28 -27.6 -23.5 -40.3 -42.1 -36.9 -35.4 -41.8 -44.6
(2) 資産デフレ対策
一般物価のデフレの背後にある資産デフレ克服も喫緊の課題。日本銀行による潤沢な資金供給をベースにして、土地・株式の流動性を高める政策を総動員。
◆不動産の証券化
証券化によって、不動産投資へ幅広い層の投資家が参加。これによって、土地市場の活性化・有効利用が促進。
証券化に必要な法制度・関連制度を順次整備。平成13年にはJ-REITが東証に上場。
(証券化スキームの整備)
- 不動産特定共同事業(平成7年4月施行)
- 特定目的会社(SPC)(平成10年9月施行、11年11月改正)
- 投資法人(不動産ファンド)(平成12年11月施行(投資信託法・宅建業法改正)) ⇒平成12年の法改正で一般投資家向けの「資産運用型」の商品開発が可能に
(関連制度の整備)
-
不動産投資顧問業の登録制度の創設(平成12年9月)
平成15年6月末の登録状況
総合不動産投資顧問業14業者、一般不動産投資顧問業588業者
- 定期借家制度の導入(平成12年3月施行)
-
サービサー法の導入(平成10年10月施行)
▽2本のJ-REIT(不動産投資法人・不動産投資信託)が東証に上場(平成13年9月)
平成15年9月 上場J-REIT7本、時価総額約7000億円
▽不動産証券化の実績(国土交通省調)
平成9年度62億円(9件) ⇒ 14年度 2.8兆円(351件)、累計で約9兆円
◆土地流動化のための減税措置<平成15年度税制改正>
土地関連税制、相続・贈与税の思い切った見直しによって、土地流動化を税制面からもバックアップ。
土地の有効利用促進に資する土地流通税の大幅な軽減
- 不動産登記の際の登録免許税・不動産の取得の際の不動産取得税について3年間の措置として、税負担を軽減 <平成15年4月1日〜平成18年3月31日>
- 特別土地保有税の課税停止、新増設に係る事業所税の廃止<平成15年度〜>
相続税・贈与税の一体化措置の導入 <平成15年1月1日以後の贈与・相続>
- 65歳以上の親から20歳以上の子への贈与について、累積で2500万円を限度として複数年にわたって非課税で贈与が可能に(超過分は20%で課税)。
- 相続時には、贈与額と相続額の合計から計算された相続税から既に納められている贈与税を控除(控除しきれない贈与税は還付)。
- 住宅取得資金については、65歳未満の親からの贈与についても上記措置の選択が可能に。かつ、非課税枠を1000万円上乗せして3500万円に。<平成15年1月1日から17年12月31日までの間の贈与>
- 現行の住宅取得資金の贈与の特例(5分5乗)も平成17年12月31日までの間存続。
◆画期的な都市再生のスキームの導入
都市再生特別措置法(平成14年6月1日施行)に基づき、民間の独創的なプロジェクトを支援して、都市開発をスピードアップ。既に、東京、札幌、神戸など、全国で53ヶ所(6103ha)の「都市再生緊急整備地域」を指定。
- 既存の用途、容積率等の規制を全て適用除外とし、地域の実情に応じた自由度の高い都市計画を定めることが可能に
- 期限を区切った都市計画決定により(提案後6ヶ月以内に都市計画決定の判断等)都市再生事業の迅速な実現が可能に
- 民間事業者の行う一定の都市開発事業に関する計画について、国土交通大臣の認定を得た上で、民間都市開発推進機構を通じて金融支援(無利子貸付、出資社債等取得、債務保証)を行う制度を創設
<都市再生緊急整備地域>
第一次指定(平成14年7月) 17地域 東京、大阪、名古屋、横浜第二次指定(平成14年10月) 28地域 政令指定都市等
第三次指定(平成15年6月) 9地域 県庁所在地等
第二次指定までの44地域における民間建設投資は約7兆円、波及効果等を含めた経済効果は約20兆円。
○15の都市再生プロジェクトの推進
- 「21世紀の新しい都市創造」(国際競争力のある都市の形成等)と「20世紀の負の遺産の解消」(慢性的交通渋滞等)を図るため、平成13年6月以後5次にわたり15の「都市再生プロジェクト」を決定し、予算の重点的配分等を実施
○全国都市再生のための緊急措置(「稚内から石垣まで」)を推進(平成14年4月決定)
- 「身の回り」の生活の質の向上と「地域経済・社会」の活性化を図るため、全国の地方公共団体、民間団体等から、提案を募集(840件程度の応募)
- 内閣官房が中心となり、関係省庁と地方公共団体等による協議会等を構築し、提案の具体化に向けた検討を開始
◆証券市場活性化−貯蓄から投資への流れを加速
1400兆円の個人金融資産のうち、株式投資はわずか7%。(株式投資比率 米34%、英14%、独13%、仏32%、平成13年末)
経済の活性化のためには、金融システムの健全化と合わせて、様々な政策手段を講じて、貯蓄から投資の流れを加速して、リスク・マネーの供給の拡大・充実が必要
金融・証券税制を大幅に軽減・簡素化 <平成15年度税制改正>
- 株式譲渡益・配当・株式投信収益分配金に対し、今後5年間10%の優遇税率を適用
- 申告不要制度の導入(源泉徴収のみで終了)
証券を購入しやすくなる環境作り(証券市場構造改革)
- 証券取引法の改正(平成15年5月23日成立)により証券投資をより身近なものとする環境を整備
- 身近な金融機関等で証券の購入が可能に:銀行に加え、信金、信組、農協等の協同組織金融機関にも有価証券の注文の書面取次ぎサービスを容認(平成15年6月30日から実施)
- 顧客と証券会社を仲介する証券仲介業制度を創設(平成16年4月1日から実施)
- 証券会社のラップ口座を提供しやすい制度に改正して、資産管理サービスがより身近に(平成16年4月1日から実施)
「証券市場の構造改革と活性化に関する対応について」(平成15年5月14日)
- 上記構造改革の取組みにあわせて、当面の需給関係を視野に入れて、次のように対応。
- 厚生年金基金の代行返上の前倒し
- 郵貯・簡保、公的年金による株式運用の拡大について検討
- 銀行等の保有株式制限の延長、銀行等保有株式取得機構の売却時拠出金の撤廃
- 証券関係各団体等に対して、個人株主育成の観点からアクションプランを策定することを要請
- 民間企業の取組:産業再生法等を活用した事業再構築や新たな事業展開を積極的に進めることにより収益性を一層高めること、適切な配当政策、コーポレートガバナンスやIRの充実への積極的な取組 など
(参考)景気に持ち直しの動き
世界的に株価は回復基調。
⇒日経平均 平成15年4月28日を底(7,607円、バブル後最安値)に、8月19日には終値で1万円台を回復
⇒NYDOW平均 平成15年3月11日を底(7524ドル)に6月には9000ドル台を回復
企業収益は大きく改善。倒産件数は緩やかに減少。
⇒平成15年3月期の上場企業の経常利益は71.5%増益、次3月期も16.7%増益の見通し
⇒企業倒産件数は、セーフティネット保証の適用件数が増えていること等を背景に、12ヶ月連続で前年同月比マイナス(平成14年9月〜平成15年8月)
設備投資が増加に、先行きも増加傾向が続く見込み
⇒設備投資 5四半期連続前期比プラス(平成14年第2四半期〜15年第2四半期)
⇒日銀短観 15年度設備投資計画 3年ぶりに前年比プラスに(4.9%)
失業率は高水準で推移するものの、雇用者数・新規求人数に持ち直しの動き。
消費者物価・企業物価はともに横ばい
平成15年4-6月期実質GDPは、前期比1.0%(年率3.9%)で、6四半期プラス成長。名目でも前期比0.3%(年率1.2%)と2四半期連続プラス成長。