構造改革のすべて - 1
〜歴史的意義と到達点〜
1. 政治主導の枠組み
小泉内閣は、先の中央省庁改革の成果である内閣機能の強化・首相の指導力向上といった枠組みを活かして、官邸主導の下で、かつてない迅速な意思決定で改革に邁進。
とりわけ、現在、特殊法人改革、道路四公団民営化、構造改革特区、産業再生機構、司法制度改革など内閣の重要課題は、従来の省庁の枠組みを超えて、内閣官房・内閣府において、内閣の強いリーダーシップの下で実施。
2. デフレ克服と「元気な日本経済」の実現に向けた取り組み
1990年代には、累次120兆円にのぼる景気対策。景気の下支え効果はあったものの、財政状況は主要先進国中最悪の状態に。
- 国の公債残高 約450兆円(平成15年度)
- 国及び地方の長期債務の対GDP比 各国比較
表1 国及び地方の長期債務の対GDP比 各国比較 日 米 英 独 仏 伊 カナダ 1990年 64.60% 66.60% 44.40% 41.50% 39.50% 97.20% 75.10% 2003年 151.00% 62.00% 50.90% 63.70% 68.40% 108.10% 78.90% - 税収は、1990年代の景気の低迷・小渕政権下の大型制度減税(9兆円超)等によって、大きく落ち込み。
1990年 国税収入60. 1兆円(歳出の86. 8%)
2003年 国税収入41. 8兆円(歳出の51. 1%)
いま我が国に求められているのは、戦後の成功体験から脱却し、あらゆる分野において、構造改革を推進して、真の日本経済の再生、中長期的な発展基盤を築くことである。
小泉構造改革の本質は、危機的な財政状況を看過して安易な景気拡大策をとることなく、わが国の高度成長を支えてきたこれまでの古い制度や政策のやり方の刷新、「トータルなシステム改革」を行うことによって、一時的ではなく持続する経済成長、新しい時代に対応した「元気な日本経済」を築き上げることにある。
小泉内閣において、「改革なくして成長なし」、「民間にできることは民間に」、「地方にできることは地方に」といった基本理念の下、この2年余りで構造改革は着実に成果をあげている。
ただし、デフレ下では、あらゆる政策の効果が減殺される側面があり、デフレ克服は喫緊の課題。
したがって、デフレの克服と中長期的な発展に向けた構造改革に同時に取り組み、一日も早くわが国の持つ潜在的な能力を花開かせることが不可欠。
また、その際、日本社会が本格的な高齢化社会を迎える2010年代初頭までの財政再建の道筋について明確なビジョンを提示して、中期的な展望の下で改革に取り組むことが重要。
いかなる制度も、国民一人ひとりの取り組みが伴わねば効果がないし、低成長化での改革には痛みが伴う。これを乗り越えて、経済再生が果たせるかどうかは、2010年代初頭までに決まる。こうした時代認識を持てるかどうかが我々の将来を決定する。政府と国民が一体となって取り組む、「時代の機運」を作り出すこと、これがキーワードである。
3. デフレ問題のポイント
デフレの要因と問題点
あらゆる物価指標が近年マイナスに。戦後初、他の先進国でも例がない。趨勢的な物価下落が人々のデフレ期待を徐々に拡大。
(対前年度比、%) | 平成3(91) | 平成4(92) | 平成5(93) | 平成6(94) | 平成7(95) | 平成8(96) | 平成9(97) | 平成10(98) | 平成11(99) | 平成12(2000) | 平成13(2001) | 平成14(2002) |
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消費者物価指数 | 2.6 | 2.1 | 1.1 | 0.6 | ▲0.1 | 0.3 | 2.1 | ▲0.2 | ▲0.1 | ▲0.5 | ▲0.8 | ▲0.8 |
国内企業物価指数 | 0.5 | ▲1.0 | ▲1.8 | ▲1.4 | ▲1.1 | ▲1.4 | 1 | ▲2.1 | ▲0.8 | ▲0.6 | ▲2.4 | ▲1.6 |
GDPデフレーター | 2.7 | 1.4 | 0.4 | ▲0.1 | ▲0.6 | ▲0.7 | 0.7 | ▲0.6 | ▲1.7 | ▲2.0 | ▲1.3 | ▲2.3 |
※平成9年4月消費税率3%から5%に引上げ
デフレは、以下の3つの要因が複合して影響。
- 景気回復の遅れによる需要の低迷
- 安価な輸入品の流入、技術革新や流通合理化等によるコスト低下等、供給側の物価下落圧力
- 大幅な金融緩和策にもかかわらず、銀行貸出やマネーサプライが伸びないという金融要因
デフレは、実質債務の増加や実質金利の上昇を通じて企業の投資を抑制するなど経済に悪影響。
日銀の金融緩和策にもかかわらず、銀行貸出やマネーサプライの増加につながらず、金融面でも下押し。
平成9 (97) |
10 (98) |
11 (99) |
12 (2000) |
13 (2001) |
14年度 (2002) |
14年 1-3 |
4-6 |
7-9 |
10-12 |
15年 1-3 |
4-6 |
|
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名目GDP成長率 | 0.9 | ▲1.3 | ▲0.7 | 1.1 | ▲2.5 | ▲0.7 | 1.3 | ▲1.4 | 1.4 | ▲1.8 | 0 | 1.2 |
実質GDP成長率 | 0.2 | ▲0.7 | 1 | 3.2 | ▲1.2 | 1.6 | 0.7 | 3.8 | 3.3 | 2.3 | 2.4 | 3.9 |
(対前年度比、対前期比年率換算、%)
資産デフレ
金融機関による土地担保融資や企業の株式持合いなどで、日本経済には土地と株が深く組み込まれており、資産価格の変動が経済に大きな影響。
地価・株価の動向をみると、ピーク時の約4分の1に
- 市街地価格指数(6大都市全用途平均) 平成15年3月 ピーク時(平成2年9月)の▲73. 6%
- 株価(日経平均) 平成元年12月38,915円⇒15年3月末7,972円(ピーク時の▲79. 5%)
- バブルが崩壊した90年以降、土地と株式で1330兆円ものキャピタル・ロス(SNAベース、1989年末〜2001年末)
バランスシートの悪化、担保価値の減少や株価下落による資金調達の困難化によって、設備投資や個人消費等へのマイナスの影響、また不良債権の増加によって、実体経済へ悪影響。
国際大競争デフレ
東西冷戦の終結を契機に、市場経済が世界中に拡大。
わが国においても、中国等からの安価な輸入品が急増。
- 中国からの輸入品の急増(平成14年は国別で米国を抜いてトップに(18. 3%))
- 輸入品に占める海外製品比率の上昇:平成2年6. 4%⇒平成12年14. 5%
技術革新や流通合理化などコスト削減による物価下落の広まり。
国内産業の空洞化・雇用への影響が懸念
- IMD競争力ランキングの低迷:平成元年〜5年トップ⇒平成14年49ヶ国中第30位
- 製造業の就業者:平成9年〜14年の間に▲220万人(サービス業は+156万人)
↓
デフレを退治し、「元気な日本経済」を
デフレと生産活動の縮小が相互作用し、デフレスパイラルに陥ることのないよう、しっかりとしたデフレ退治を行い、「元気な日本経済」を実現
4. 小泉政権の中期ビジョン(改革と展望、平成14年1月)
<中期的に実現を目指す経済社会>
これからの日本は、人を何よりも重視する社会。また、絶え間なく革新的な技術や工夫が生み出され、様々な環境変化にも機敏かつ柔軟に対応する効率的な経済活動が展開。一方、安心で活気と魅力に満ちた生活環境が創造。
個性と能力を伸び伸びと発揮する「人」、創造性のある多様な「知」、人間社会と自然が調和した「美」でにぎわう日本を目指す。
- 国民がこの国に生きることに誇りを持ち、海外の資本や世界の人々にとっても魅力のある人材大国が実現。
- 努力した者が報われる頑張りがいのある社会。また、仮に事業に失敗しても、努力をすれば再挑戦できる社会に。
- 生涯現役社会、男女共同参画社会を構築。例えば70歳を超えても、多様な形態で高齢者が活躍し、若者も努力と学習によって可能性に挑戦。また、仕事と育児の両立が可能に。
- 貿易、投資のみならず研究開発や文化芸術、スポーツなど幅広い分野で国民が世界の中で活躍し、貢献。
- 消費者のウォンツ(潜在的需要)の充足、先端技術の産業化、東アジア地域等との連携、中小企業を中心とする経営の革新等を通じて、新たな成長のエンジンが本格的に始動。
- 「民間でできることは民間で」「地方でできることは地方で」を基本とする簡素で効率的な政府が形成。一方で民間企業やNPO等の活躍の場が拡大。
- 地方が「自助と自律の精神」のもと多様な資源を活かし、知恵と工夫で地域の魅力、個性を発揮。都市と農山漁村の共生と対流も進展。
- 循環型経済社会の構築、ゴミゼロと脱温暖化の社会づくり、自然との共生などを通じて、美しい日本を形成。