衆議院議員 福島2区(郡山市、二本松市、本宮市、大玉村
掲載 : 週刊文春 4月12日号
2001.04.12

根本匠+石原伸晃
まだ見ぬ総理へ送る 「日本経済サバイバルプラン」- 3

究極の一手「サバイバルファンド」

巨大なモンスターと化した不良債権問題にどこから切り込んだらいいのか?

もっとも効果的なのは、敵の足元を狙うことです。

不良債権が根を下ろしている土地をグラグラと揺すぶり、貧乏神を追い出してしまう。不良債権処理の突破口は土地流動化に在り。われわれの発想の原点は、3年前から変わっていません。

銀行が、「いま土地を大量に処分すれば、どこまでも地価が下落する」と臆病風に吹かれっぱなしなのは、取り越し苦労に思えます。地価が下げ止まらないのは、端的に言って、「底値感」が出ていないからです。

銀行が後生大事に不良債権を抱え込んでいるから、かえって地価が下がり続けるのではないでしょうか。不良債権の全貌が隠されているので、まだまだ土地は放出される、という不安感が消えない。その不安はおのずと買い控えにつながります。

不良債権をすべて明らかにし、土地を売りに出せば、むしろ「底値感」が需要を喚起するはずです。

仮に一時的に地価が下がっても、買う人さえいれば、かならずその土地の利用価値に見合った値段がつきます。底値の先には、値上がりしかありません。

いたずらに虚像に怯えることなく、正面から敵(不良債権)に立ち向かえば、おのずと「資産デフレ」脱出の活路は開けます。そのための武器を、すでに「土地債権流動化トータルプラン」が用意しました。

足りないのは、最初の一歩を踏み出すきっかけだけ。日本経済が21世紀に生き残るための最後の戦いです。

まだ見ぬ新総理へ、そしてすべての勇気ある日本人に向け、われわれは究極の一手、「日本経済サバイバルファンド」を提唱します。

一括ではさばきにくい土地を動かす妙手がある。不動産を小口の証券に分けバラ売りする、ABS(資産担保証券)と呼ばれる金融商品で、そのための法制はすでに前述の「トータルプラン」で実現されています。

たとえば丸の内の一等地に立つビル数棟の土地建物の権利を、1万口の証券に分け、1口50万円で売り出したとしましょう。もし、年間55億円の賃貸収入があり、経費を差し引いても2億5千万円の利益が生じたら、1口あたり2万5千円の配当ができる。年5パーセントの利回りとなり、ほぼゼロ金利の銀行に預けているよりよっぽどいい。

アメリカには実際、不動産担保投信を売買する1400億ドル(15兆円)規模の「リート市場」があります。日本でも、すでに三菱地所や三井不動産が商品化に取り組み、全体で1兆円規模の市場が誕生した。

われわれの「サバイバルファンド」は、この不動産の証券化を国が全面的に後押しする仕組みです。

まず新設の「サバイバルファンド機構」が、国から10兆円程度の出資または融資を受け、銀行から不動産担保付債権をどんどん買い上げる。既存の整理回収機構(RCC)を活用してもいいかも知れません。

バルクセールでは、債権の買取価格は平均で額面の8パーセントとされます。このデンで行けば額面の1割で買い上げたとしても、仮に10兆円使えば、100兆円分の債権が買える。

するとあら不思議、灰色部分も含め銀行のバランスシートから不良債権がすっかり消えてしまう。

証券化を早めるため,「サービサー」も活用し,錯綜した権利関係を解きほぐす。占有屋は機動隊を導入するぐらいの覚悟で追っ払い、不法な勢力を断固として排除する,といった必要があります。値段も適正評価する基準(デューデリジェンス)を設けます。

たとえば買い上げた不良債権から土地を売った後、ローンが残った場合はどうするか。サービサーに頼んで、債務者から少しずつでも担保割れ部分を返して貰います。中にはもう鼻血も出ない、という債務者もいるかも知れません。その場合は、どうか怖がらずに、「民事再生法」による事業整理を選択して下さい。

民事再生法は、借金という荷を軽くして、事業家が蘇るための前向きなシステムです。むろん債務棒引きといった「徳政令」ではありません。それなりのペナルティーは払ってもらいますが、払える限度にとどめ、後はセカンドチャンスにかけてもらう。

「サバイバルファンド」が機能し始めると、銀行は延滞債権と引当金の二重苦から解放され、新規貸し出しに力を注げるようになる。不良債権の一掃こそ、産業再生の入り口です。

プロジェクトの善し悪しによって融資を決めるのが常識になれば、健康な体と優秀な頭脳を担保に、いくらでも再挑戦が可能になる。むしろ失敗はノウハウを蓄積し、成功の母となるでしょう。

そのためにも国は、個人の能力と意欲を引き出す支援策を惜しんではなりません。

ここで雇用促進にも若干触れておきたいと思います。

借金を大量に抱え込んでいるのは、ゼネコン、不動産、流通、ノンバンクの4業種。特にゼネコンは、構造不況業種と言われて久しい。ゼネコンの債権放棄の時、必ず「ゼネコンが倒産すれば、大量の失業者が出る」との口実が使われます。

しかし、はたして本当でしょうか?

建築・土木の現場で実際に働いているのは、注文を取ってくるゼネコンの社員ではなく、下請け業者です。ゼネコンが一社倒産しても、下請けは別のゼネコンから仕事を取ってくればいいだけ。あるいはもっと前向きに、高齢者向け住宅や都市緑化事業など専門に特化し、インターネットを使って自分で仕事を取ってくるという選択肢もある。

不動産にしても同じこと。もはや一社だけで物件開発し、販売まで手掛けるやり方は時代遅れだし、それだけの体力を持つ会社は少ない。

不動産の証券化が業界再編につながるはずです。

借金漬けのポンコツ企業を生かし続けるのは、穴の開いたバケツに水を注ぎ続けるようなもの。その分、他の新しい企業の登場を邪魔しているわけだから、大迷惑です。

これだけの大手術を行えば、一時的な失業者増や地価下落のリスクはあるでしょう。しかし、これからの雇用対策は、あくまで全産業をカバーし、雇用の流動性を高め、ニュービジネスの創業を促進するようなものでないと意味がないと思います。

地価下落については、「サバイバルファンド」に、ちゃんと安全装置を備えるつもりです。 証券をいくつかの種類に分け、利益還元に優先順位をつけておくのです。たとえば、地価下落に連動して賃貸料収入が減り、ファンドの運用益がはじめの見込みより減ってしまったとします。その場合、優先順位に1位から10位まであるとすれば、1位から順に傾斜をつけて運用益を配分し、優先順位の低い8、9、10位あたりは配当をゼロにしてしまう。

このような危険なカードは、銀行に引き取らせる。もとはと言えば、自分で蒔いた種なのですから、当然でしょう。国は銀行の次に危険なカードを引き取ることにする。

その代わり、もし大きな利益が出たら、順位の低い方から高配当にする。国が得た利益は、国庫に還元する。「サバイバルファンド」によって、不良債権の処理、不動産の流動化がスピーディーに進めば、最終的に国が出した10兆円はお釣りがついて戻ってくる。

いっぽう1位から5位までの証券は、運用実績が下がってもそれなりの利回りを保証する。安全な投資ですから、機関投資家、さらに個人投資家が競って買い求めるようになるでしょう。

その一次売り上げは、サバイバルファンド機構に入る。5年後をめどに、「サバイバルファンド市場」が大きく育ち、最終的には国の手から離れるのが目標。国が最初の一押しだけして、あとはギアチェンジした「経済」が自分でペダルを漕ぎ、坂道をスイスイ登っていくのが理想です。

サバイバルファンド市場が活性化すれば、低金利と株安で行き場を失っていた資金がどんどん入り込んでくる。眠っていた1400兆円の個人資産が、一気に産業の血液となって回りはじめるのですから、相乗効果で資本市場全体が元気に目覚めるのではないでしょうか。

ところで、この仕掛けには、もう一つタネがあります。不良債権から分離した不動産が市場に出るようになれば、それを使って都市を蘇らせることができるのです。

サバイバルファンドが買い上げる土地には、証券化しても、さほど収益性の見込めないものが当然ある。バブルの地上げ後の虫食い地や、都市計画の遅れで、利用価値が低い地域です。

そうした土地を、都市基盤整備公団が集約・整形化,民間と協力し再開発を行う。国や自治体が、公共用地として使ってもいい。

日のあたらない場所が、一挙に住みよい住宅や、憩いある公園に生まれ変わる。ちょうどオセロのように、首都圏に集中するバブルの負の遺産が、都市再生へ向けた正の布石にひっくり返るのです。

たとえば、首都高速の慢性的な渋滞は、合流地点が狭くてボトルネック化しているからです。騒音のうるさい合流地点周辺の土地を公共投資で住宅地と等価交換、合流地点を2倍に拡げるのは、いいアイデアではないでしょうか。

年間の国の公共事業は、総額およそ10兆円。いまさら整備新幹線を延長したり、ムダなハコモノを増やすのは、ばかげています。そのうちせめて半分でも、大都市に集中的に投資すべきです。その方がはるかに経済全体(産業新生・雇用)に与える波及効果は大きいと思います。

羽田空港は国際化して、24時間オープン。首都高を8車線化、環状線は一方通行にすれば、家から羽田まで30分。仕事帰りに海外旅行へ直行できる。向こうで知り合った外国人家族が訪ねてきたら、東京を案内する。

いま夜の銀座は、社用族の接待も減り、客待ちのタクシーが列をなしている。それぐらいならいっそ車の乗り入れを全面的に禁止して、明治時代さながらのチンチン電車を復活させる。外国から来た友人は、「OH! FANTASTIC」とばかり、そのまま日本に定住してしまうかもしれない。

70兆円あれば、東京23区のすべての建物を建て直すことができるという調査報告がある。老朽化した建物のリニューアルこそ、最大の防災対策です。

企業と人がサバイバルし、都市がリバイバルするわれわれのプランを夢物語と受け流すのは、あなたの自由です。しかし、経済は夢がなければ前に進めない。夢をリアルにするのは、信用力です。

国債の格付け引き下げに象徴されるように、いま海外に対する日本の信用力がとめどなく落ちています。

本来は、銀行が自ら不良債権の全貌を明らかにし、処理へ向けた道筋を示すべきです。これ以上先送りするなら、それこそカルロス・ゴーンやグリーンスパン(米連邦準備制度理事会議長)を金融担当相に据えた徹底的な再検査も避けられないほどの瀬戸際です。

むろん一番信用を失っているのは政治だと、われわれは認識しています。

われわれは、「サバイバルファンド」にとどまらず、トータルな経済政策体系を網羅した,「サバイバルプラン」をすでに用意しているのです。近日中には、正式に発表できると思います。

3年前の「トータルプラン」で、ツールはほぼ網羅したつもりでしたが、先送りのツケで状況が大きく悪化したのを受け、各ツールをバージョンアップさせたのが、今回の「サバイバルプラン」です。

抜本的な不良債権処理のファイナルステージとして、不良債権の徹底的な実態解明、土地・債権流動化、金融再生、産業再生、都市再生、資産デフレ対策などの施策を包括的、かつ政治主導でスピーディーに進めなければいけません。今年度中に着手し、日本経済を自立回復軌道に乗せるまでのリミットは、3年間に区切っています。

われわれは恫喝や独善ではなく、論理によって人を動かし、改革に着手します。論理は力です。われわれは論理で戦います。

さあ、どうかあなたも、一歩前へ――。