住宅には政策金融が必要
日本経済の状況について、どうお考えですか。
根本 最近の日本経済は、従来の景気指標だけでみていると診断できなくなっているという点が大事です。今の景気は輸出産業がリーマン・ショックから立ち直ってきたというトレンドになっているが、もう一つ、リーマン・ショックで大きな影響が現れていたのは国内の不動産部門です。不動産は典型的な内需産業でしたが、不動産の証券化に見られるように、金融商品という側面が出てきており、内需産業以外の要素も現れてきました。
Jリートの中で地価の下落等を背景に黒字倒産する例が出てきました。倒産会社が物件の投げ売りをして、地価が市場メカニズムを超える下落を招く。地価が下落すると担保価値も下がる。すると、その外側の不動産証券化の分野にまで影響が波及する。それが金融機関の貸出しにまで影響し、全体の経済に波及する。Jリートの倒産は金融のグローバル化の影響なんですね。
そこで、資金をキチンと供給する仕組みを作る必要があるということで、自民党の「日本の活力創造総合戦略特命委員会」を作り、私が座長となり、昨秋、官民協調の「不動産安定化ファンド」を作りました。これにより不動産市場の価格下落は食い止められました。全体の経済でみても相当な下支えとなったと考えています。住宅市況が歴史的な冷え込みという状況ですが。
根本 金融機関の融資態度が一つの問題としてありますが、雇用政策との関連が大きいと思います。従来と状況が異なっているのは、雇用政策の中で派遣という形態が出てきたことです。私の地元でよく聞くことは派遣社員同士が結婚をすると、派遣のままでは将来に希望が持てず、子供を産むことを躊躇するという現象があります。派遣は働き方の多様化という点ではプラス面があるが、負の側面もあり、これは住宅の需要の問題にもつながってきます。
内需の延長にアジア
住宅について改めて述べると、住宅を考えることは、日本経済の問題にもつながるし、環境問題や健康、雇用政策にまでつながるわけです。私は07年に総理大臣補佐官として「アジア・ゲートウェイ構想」をまとめましたが、その時の発想には日本経済の中で内需振興が経済活性化の柱を担ってきたが、アジアが成長してくるとアジアは外需としてではなく内需の延長として考えたらいいのではないかということがありました。
アジアの成長は、日本がアジアに追い上げられるという側面はあるものの、消費需要が毎年大きな市場として拡大していくということであり、そこに日本が打って出ることが考えられます。自動車や電機だけではなく農業、ピアノ教室など、かつて国内の1億人の市場で対応していた内需型産業が打って出る可能性が出ています。住宅もそうでしょうということです。
日本の住宅は、北海道のような寒冷地があり、東京のようなヒートアイランドもある。九州・沖縄という亜熱帯という気候もあり、それらに対応しています。日本の住宅は、そうした地政学的環境特性に応じた住宅を開発するノウハウを持っているのであり、これをアジアに売り出していけるのではないかと思います。むろん、地震に強いといった技術・性能面でも優位性が多くあります。
私が今注目しているのは「ロハスの家」です。郡山市の日大工学部のプロジェクトがあり、郡山などの中小企業が参画して住宅の新市場開拓に乗り出しているものです。ロハスとは1990年代にアメリカで生まれた概念で、健康と環境に配慮した持続可能な生活スタイルを追求しています。地元の業者を中心に機械や建築、土木の最先端技術を結集して理想の家の開発を進めています。すでに3号までのロハスの家を手がけており、住宅分野の新しい部品が生まれ、住宅のブレークスルーとなる可能性があり、他の産業にも波及する効果も望まれています。日本は本来、物づくりが得意な国であり、それに感性面での付加価値を付けると新たな可能性が出てきます。住宅を切り口に新たな付加価値を持った成長分野が開拓される期待もできるプロジェクトです。
根本先生の得意な金融分野の動きについては。
根本 私は住宅には政策金融が必要だと思います。小泉改革の時の内閣府副大臣でしたが、当時、政策金融で大議論をしました。「官から民」という言葉の中で「住宅ローンは民間で十分出来るのではないか」と総理はおっしゃった。金融機関は以前は手間暇がかかって収益性が低いということで消極的だったが、不良債権処理の後、収益の柱として住宅金融を捉えていた。だから、住宅金融公庫を廃止して民間に任せるべきだという議論が出ていました。
あの時、議論したのは、民間金融機関は選別融資をするということでしたが、公庫廃止は大勢となっており、直接融資は防災とかに限定ということになりました。民間が選別融資をしない仕組みとして住宅ローンの証券化が出てきて、証券化のスキームを住宅支援機構が担うこととした。しかし、選別融資が今でもあるとすると、選択肢として政策金融という道は必要だと思います。国民の住宅取得促進という点では支援機構の直接融資は民業圧迫ではないわけで、官民の役割分担として必要だと思います。民がやらないところを政策として担うということですね。