首相補佐官かく語りき
われら安倍首相の“母衣(ほろ)武者”とならん
外交、内政両面で政治主導を確立するため、官邸機能の強化を図るため――総理の意を体して駆け巡る決意
経済財政担当 根本匠(ねもとたくみ)
国家安全保障問題担当 小池百合子(こいけゆりこ)
教育再生担当 山谷えり子(やまたにえりこ)
広報担当 世耕弘成(せこうひろしげ)
――安倍総理は、小泉内閣で二人だった補佐官を内閣法の上限いっぱいの五人に増員しました。内政、外交面で政治主導を確立するために官邸機能の強化を図るのが狙いと伝えられていますが、補佐官の任を担われたみなさんは、安倍政権の歴史的位置についてどのような認識を持たれているか、まずお聞かせください。
根本 現在の日本は、明治維新、第二次大戦後に続く、゛第三の改革″の時代に入っています。小泉前総理の掲げた「聖域なき構造改革」は、まさに武士の世に終わりを告げ、日本を近代国家のとば口に立たせた明治維新に匹敵するものと考えていますが、破壊のあとの創造までには達しなかった。安倍政権は、「維新」であることを踏まえ、新しい日本の創造という役割を担う、明治維新になぞらえれば、一八七一年の廃藩置県以後の政治の舵取りに力を尽くすことが歴史的な位置付けであり、また使命だと思います。 《根本匠氏 経済財政 東大卒。自民党人事委員長。55歳。福島2区、衆院当選5回》
成長戦略とアジア・ゲートウェイ構想の推進(根本)
――根本さん、小泉改革は、いたずらに市場原理主義を蔓延らせ、法を犯した人間が、「金を儲けてどこが悪い」と開き直るような身も蓋もない社会に日本を変えてしまったのではないかという批判があります。また一部の人間が富むだけでは、所詮゛薮枯らし″で、格差拡大が進む中、国民全体のモラルや士気は低下するだけだという声も聞かれます。
根本 資本主義といっても、アメリカやヨーロッパなど国や地域によってその実態に差異や幅があります。それぞれの民族性、国民性を反映するわけです。したがって、日本には日本人による日本型の資本主義、市場主義があるべきだと私は考えています。日本人は基本的に★諍(いさか)★いを好まない和の民族です。市場主義の行き過ぎは決していいことではなく、真の弱者には手を差し伸べなければならない。しかし、同時に経済の活力は引き出していかなければなりません。一部の゛薮枯らし″を生み出すための規制緩和ではなく、多くの国民の利益になる方向で必要なものなのです。
たしかに、小泉政権はいろいろ既存の制度を打ち壊しました。小泉さんの改革は、基本的に供給サイドの改革だったと私は思っています。これまで不景気はモノをつくっても売れないことだとして、景気対策イコール総需要政策で、公共事業等の財政出動と減税によって需要を創出するということでやってきました。
ところがこの十数年間、金融制度の変化や国際的大競争に巻き込まれた日本は、供給サイドの改革が追いついていかなかった。それが企業再編、不良債権処理、日銀の量的緩和など、民間の自助努力と政府の構造改革が進んだことによって、どうにか雇用、生産設備、債務の三つの過剰を解消するところまでやってきた。日本経済は、国民に痛みを求める時期を過ぎて好循環に向かうスタートラインにようやく立った。新たな成長戦略を打ち出して、小泉時代の破壊から創造へと向かうことが安倍政権の位置づけだと思います。
私の主な担当は、経済成長戦略と日本がアジアと世界の架け橋になるアジア・ゲートウェイ構想の推進です。成長戦略で重要な指標の一つは雇用ですが、三年前と比較すれば全体的に底上げされています。有効求人倍率を見ても上がっている。現在の景気が戦後最長の「いざなぎ景気」(昭和四十年十一月?四十五年七月)と回復期間で並び、この十一月には戦後最長の更新がほぼ確実になったことが月例経済報告で出されました。平成十四年二月から始まった今回の回復局面は五十七カ月連続となったわけですが、過去の大型景気と比べて実感に乏しいのは、一〇%を超えるような経済成長の時代と二、三%の成長の時代を比べれば、どうしても地域間や業種間に不均衡が生じてしまうからです。
不況下の就職氷河期にニートやフリーターになった二十代後半から三十代後半の人たちがそのまま固定化し、格差が拡大することのないようにしなければならない。そのためにも新たな経済の枠組みに移行させる目標を設定し、経済成長、活性化の戦略を打ち立てることが必要です。
私はそのカギとして「イノベーション」と「オープン」ということを考えています。これからのイノベーションは、単なる技術革新にとどまらず、企業経営から製造、販売のシステム変革など幅広い分野での大胆な発想の転換のことで、オープンは、アジア・ゲートウェイ構想にもつながるもので、ヒト・モノ・カネ・情報・文化といった多様なチャンネルを開いて、積極的にアジアの活力を日本に取り込んでいく。
それを日本の伝統や文化の中で咀嚼し、吸収し、新たに日本から世界に向けて発信していく。こうした成長戦略をまとめることが、今の私に課せられた仕事だと思っています。とにかく新設ポストですから、官邸と経済財政諮問会議との関係、どこが司令塔になるかなど走りながら考えていきます。
日本人の可能性を束ねること(根本)
――対外的な情報発信はもちろんですが、国内においても政治の意図がどれほど正確に国民に伝わるかが政策遂行にとってきわめて重要な要素です。これから担当省庁との折衝や、関係議員、団体との調整などに摩擦を抱えることも予想される補佐官ポストに就かれたみなさんに、安倍総理の“母衣武者”として、これだけは国民の耳目にきちんと届いてほしいという思いを。
根本 安倍総理は「美しい国日本」をつくることを理念として掲げられた。構造改革の痛みに耐えて今の日本には経済の復活とともに明るい光が差し込んできている。これはやっぱり日本人の力です。文化や風土、人材など日本は潜在的資源に溢れた国で、この活力を結集することができれば、日本はいかなる困難にも立ち向かっていけると私は確信しています。
私の選挙区(福島県)には農村も都市もあるのですが、このところの農業の活力には目を見張るものがあります。日本の農業は衰退の一途などと言われ、十年前にはコメを輸出できるなんて思ってもいなかったのが今では立派に輸出できている。北海道帯広では長芋を台湾に輸出しています。長芋の食べ方を教えるという食文化を含めての輸出で、それ以外にもさまざまな形で農産物の輸出は伸びています。
決して日本ブランドの売り物は工業製品だけではない。ものづくりに強い日本、歴史伝統を背景にした観光資源など他にもいろいろな可能性、力を持っています。これらを束ねることで内政がそのまま対外発信の力となる。主張する日本外交を支える日本の魅力にもつながる。経済成長の戦略を通じてそうした力を引き出すことが安倍内閣の役目であり、私の仕事であると決意しています。