衆議院議員 福島2区(郡山市、二本松市、本宮市、大玉村
2005.07.27

我が国の国際競争力強化に向けた提言

自由民主党政務調査会
国際競争力調査会

我が国は、少子高齢化の急速な進展、中国の台頭をはじめとする国際競争の激化など、大きな環境変化に直面している。こうした中、資源に乏しい我が国が21世紀においても豊かな生活を享受し続けるためには、持続的な経済成長による国富の拡大に向けて、中長期的な観点から、イノベーションの創出を基軸として国際競争力の強化を図ることが不可欠である。このため、イノベーションの鍵を握るシステム全体を改革し、技術を創る研究開発、人材の育成・強化、競争力を支えるインフラ整備等の幅広い分野で、国際競争力の強化に向けた取組を行っていくことが必要である。

我が国には、誇るべき伝統・文化がある。勤勉、真面目で、真摯に物事に取り組む国民性とそうした努力が報われる社会、海外の文化・制度を受容し、日本固有のものと融合させ、新たな創造をする力、長期的な信頼関係やチームワークを大切にする心など、長い歴史に裏付けられた総合的な文化力というべきものを継承・発展させ、それを土台に、我が国の国際競争力を高めていく努力をしなくてはならない。

米国では、昨年12月にイノベーションを基軸としたレポート「Innovate America」(パルミザーノレポート)がまとめられたところであるが、本提言も、我が国が国際競争力を強化するためにまず取り組むべき施策を包括的にとりまとめたものである。

本提言に盛り込んだ内容を早急に実施すべきであり、来年度予算、税制改正、法律改正等で実現できるものはそこで実施に移すべきである。加えて、今後、本提言を基礎として、政治主導の下で、国を挙げて産学官の総力を結集し、国際競争力強化のための国策を取りまとめるべきである。

I.研究開発

1. 研究開発全体

(1) 総合科学技術会議の司令塔機能の強化

イノベーションを創出する研究開発を戦略的、効果的に推進していくことが重要であり、そのための明確な全体戦略の構築、必要な研究開発投資の確保と重点的な投入が必要である。

このため、総合科学技術会議の司令塔機能を強化することが重要である。具体的には、同会議が科学技術の総合戦略構築の機能を有することを明確化するため、同会議のあり方の見直しを検討すべきである。また、総合科学技術会議の民間常勤議員の数を増やすとともに、産学の意見がバランス良く反映されるよう議員構成を見直すべきである。さらに、科学技術政策と他の政策(産業、教育、医療、労働、環境等)との整合性を確保するため、総合科学技術会議と経済財政諮問会議との緊密な連携を確保するとともに、関係府省との連携を緊密にすべきである。

なお、日本学術会議について、その職務の政府からの独立性を実質的に確保し、科学者の英知を集めたシンクタンク機能・政策提言機能を適切に果たすようにすべきである。

(2) 国の研究開発投資についての考え方

研究開発投資規模

研究開発に係る政府投資については、十分な規模を確保すべきであり、現在策定作業中の第三期科学技術基本計画において、第二期科学技術基本計画における規模を相当程度上回る数値目標(例えば、GDPの1%に相当する額)を設定すべきである。

研究開発分野

国の研究開発においては、地球観測、宇宙開発、スーパーコンピューター、エネルギー等、国力を象徴する重要技術分野を推進すべきであるとともに、研究者の自由な発想に基づき多様性を確保した基礎研究の充実が図られるべきことは言うまでもない。基礎研究充実の観点から、国立大学法人に対する運営費交付金等や私学助成については、十分な額を確保するとともに、それに必要な施設等の整備・充実を推進する必要がある。

さらに、我が国の国際競争力を強化していく上では、研究開発成果を新産業や新製品の創出などの実用化に結実させていくことが極めて重要である。このため、実用化を目指した研究開発及び基礎研究の成果をつなげて「製品の卵」段階に持って行くための研究開発を重点的に推進すべきである。また、異分野融合領域がイノベーションの源であることから、先端融合分野の研究開発を積極的に推進すべきである。さらに、研究開発を進めるに当たって、研究開発による実現目標を明確化し、その実現に向けて関係者間で共通のシナリオ(ロードマップ等)を共有しながら研究開発を推進していく体制を整備することも必要である。

国際標準化等

研究開発は、その成果である製品が国際市場を獲得できるよう、国際標準化戦略と一体で推進していくべきである。あわせて、研究開発成果を科学的・客観的に評価するための評価・計測手法の開発・標準化及びそのための先端的な計測・分析機器の開発を推進すべきである。

(3) 研究開発推進体制

国家プロジェクト

国が主導的立場で資金支援を行う研究開発プロジェクト(国家プロジェクト)については、重複排除及び効率性向上の観点から、府省連携を強力に推進するとともに、それだけでは縦割りの弊害を除去できないことにかんがみ、総合科学技術会議が主導して国家プロジェクトを立案・遂行すべきである。

具体的には、総合科学技術会議が国際競争力強化のために特に取り組むべき重点的な技術課題を指定し、同会議の主導の下で、各府省の枠組みを超えた研究開発を実施するとともに、その成果の実用化に向けて必要な制度・枠組みの見直し等に包括的に取り組むべきである。

このために必要な経費を確保するため、「国際競争力強化特別枠」を設け、同会議が活用できるようにするとともに、必要な制度・枠組みの見直し等については、総合科学技術会議が関係府省等にその具体化を要請し、内容に応じて、規制改革・民間開放推進本部、IT戦略本部、BT戦略会議等の関係組織と連携するようにすべきである。

また、国家プロジェクトに共通する推進体制として、その効果的な遂行を確保するため、以下の諸点を原則とすべきである。

  • 深い見識を有し技術の融合が可能な優れたプロジェクトリーダーを選定し、当該リーダーに対して一括して資金を託すること
  • プロジェクトの責任体制を明確化すること
  • 異分野の企業が参加する国家プロジェクトは、学や官が連携して、異分野企業群をまとめていくこと
  • プロジェクトの成果について、民間への技術移転が適切になされるようにすること

加えて、国家プロジェクトに参加する企業間の技術指導等が税務上の贈与とみなされることのないような手当をすべきである。

競争的資金

競争的資金については、これを増額するとともに、その交付に当たっての審査体制を抜本的に拡充すべきである。具体的には、ピアレビュー制度を改革し、研究計画内容の徹底審査、審査内容の応募者へのフィードバック、審査員体制の充実等を図るべきである。

あわせて、競争的資金の交付については、多額の競争的資金を所管する府省においては独立の資金交付機関においてなされるよう体制を整備し、支援される研究開発プログラムが適切に管理されるよう当該機関におけるプログラムディレクター、プログラムオフィサーをはじめとする人的体制を強化すべきである。このため、独立行政法人が当該機関を担う場合に障害となる運営費交付金の上限制約を見直し、事業規模に応じた運営費の割り当てを行うようにすべきである。

旧国研のレビュー

旧国研については、再編後の各研究機関のパフォーマンスを評価し、そのベストプラクティスを抽出するとともに、それを他の研究機関に広げる仕組みを構築すべきである。

(4) 民間の研究開発支援

我が国の研究開発の中で大きな役割を担う民間企業による研究開発を促進することが重要である。このため、研究開発投資促進税制の特例措置の充実・延長等を図るべきである。また、優れた研究開発成果を世界に先駆けて導入する日本企業への優遇措置については、引き続き手当を行うべきである。

2. 産学官連携

我が国がフロントランナーとなった今、自らの工夫と努力によって我が国独自の研究開発の成果を生み出すことが、競争力の維持・向上に必須となっている。改めて基礎に立ち返ることを重視しつつ、産学官の戦略的なパートナーシップを組んでいく必要がある。

(1) 産学官の対話に基づく本格的な共同研究の推進

我が国企業が国内の大学と行う共同研究の費用は、海外の大学等との共同研究等に比べて大幅に少ない。国内の大学や公的研究機関が行う研究の成果を産業に活用していくためには、早い段階から大学等と産業界が対話を行い、大学等における研究に生かしていくことが重要である。

このため、我が国の国際競争力を強化する上で不可欠な将来の技術シーズについて、産学官が研究課題設定の段階から協力し共同で研究を進める先端融合領域拠点を大学等において形成することを積極的に支援していくべきである。

また、基礎研究の成果を産学の連携によりイノベーションの創出につなげるため、フィージビリティ・スタディーをシステム化した戦略的・組織的な大型の産学共同研究を支援していくべきである。

(2) 人材交流の促進

産学連携の推進にあたっては、大学・企業の組織面からのみならず、人材面を含めて連携、交流を行うことが重要である。このため、大学のポスドク、研究者が産業界で研究することを促すこと、企業における実務経験を有する者を大学教員に積極的に活用すること、大学教員が企業で経験を積んだ上で、再び大学教員として大学に戻るようにすることなど、産学間の人材交流を促進すべきである。

(3) TLOなどの産学連携組織の整備

大学の研究成果の産業への円滑な移転を促進するための環境整備を行うことが重要である。このため、TLOなどの産学連携活動の実態を調査して、そのレイティングやベストプラクティスの公表を行い、産学連携活動の質の向上を促すべきである。これを通じて、ニーズ志向・課題解決型の技術移転や、中小企業に対する技術移転や共同研究が一層促進されることが期待される。

また、産学連携を担う大学の機能を強化するため、事務局における契約、法務等の知識を有する人材の育成等を推進するとともに、各大学が知的財産戦略の助走段階にある中、自律的運営ができるまでの間、知的財産の維持管理に対する支援を強化すべきである。

(4) 科学技術駆動型の地域経済活性化

地域経済再生のため、従来の公共事業依存型から科学技術駆動型への転換を図り、科学技術をベースとした地域クラスターを戦略的に選定し重点的に充実させるなど、地域における科学技術駆動型の経済活性化策を推進すべきである。

3. 知的財産戦略

知識経済や国家の魅力を競う時代にあって、イノベーションやコンテンツ、ブランドを経済成長の原動力とし「魅力ある日本」を実現していくためには、知的創造活動を刺激し、活性化するとともに、その成果を知的財産として適切に保護し、有効に活用することが必要である。このため、研究開発によって創られた高度な技術、ノウハウの海外への徒な流出を防止するために官民挙げて取り組むとともに、知的財産権の保護を充実させるための審査体制の強化、法曹人材の育成等を図るべきである。

II.人材・教育

我が国の国際競争力は、ひとえに人材にかかっている。

まず、各分野を牽引する、進取の気性に富み、創造性やリーダーシップを発揮できる優れた人材を数多く輩出していくことが不可欠である。

加えて、子供の時から、社会の一員としてなすべきことについての確固たる志と意欲を育み、それを実現できる基礎学力やコミュニケーション能力など社会で生きる人としての基礎的能力を根付かせる必要がある。また、グローバル化が進展し、異なる文化的な背景を持つ人々と交流する機会が増えている中で、我が国の伝統・文化を継承・発展し、発信する能力を育成することも必要である。

このため、家庭、地域社会、小学校から大学・大学院までの学校、企業がそれぞれの役割を十全に果たすことが必要である。

1. 形式知と暗黙知

物質的な豊かさに囲まれた今日、多くの若年層は貧窮を知らず、社会、公共のために自らが何をなしうるのかを問われることもなく、学ぶ意欲と目的意識を持てないまま育っていく状況にある。

学校教育では組織的体系的に形式知を学ぶ。しかし、人が育つには、家庭や地域の環境の中で自然に学び取っていく暗黙知と呼ぶべきものが極めて大きな影響を与える。何よりもまず、家庭や地域の健全な教育環境の再生に注力がなされるべきである。

2. 初等中等教育

(1) キャリア教育の推進

社会の構成員となるための勤労観・職業観を醸成するよう、小中高一貫して、キャリア教育の推進を図ることが必要である。特に、中学校では、すべての学校で1週間程度の職場体験を実施するよう努めるべきである。このため、教育委員会と地元産業界等との協力関係を確立すべきである。

(2) 学校、教員の資質向上

学校選択制の普及など、学校間の競争が健全に行われるよう促していくべきである。また、優れた教員の確保・育成に向け、専門職大学院の設置、教員採用における社会人等の多様な人材の確保及び教員の社会体験の推進、教員免許更新制の導入、指導力不足教員の適切な人事管理など教員評価の改善を推進すべきである。

(3) 理数教育、英語教育の充実強化

理数大好きモデル地域やスーパーサイエンスハイスクールの増加策などにより、理数教育を強化すべきである。また、地域の実情に応じ、英語教育を小学校段階から充実させるべきである。あわせて、小・中学校の授業時間を増やすとともに少人数教育の充実を図り、基礎学力を定着させるべきである。

(4) 教育投資の拡充

上記のような取組を確実に実施し、将来に向けて我が国が競争力を保持し続けるために、義務教育に要する経費の公的な支出を一層拡充すべきである。

(5) 子供の文化芸術体験活動の推進

子供たちが本物の文化芸術に触れ、日頃味わえない感動や刺激を直接体験することにより、感性と創造性を育むとともに我が国文化を継承・発展させる環境を充実させるべきである。

3. 高等教育

(1) 大学院教育の質の向上

国際競争の場で活躍できる研究者を育成するため、英語のプレゼンテーション能力や研究プロジェクトの企画・マネジメント能力等も含めた幅広く高度な知識・能力が身に付く体系的な教育課程とその組織的展開の確立を進めるべきである。

また、質の高い専門職大学院の創設・拡充を図っていくことを通じて、専門性の高い人材の育成を行うべきである。

(2) 大学院学生に対する経済的サポートの充実

博士課程(後期)在学者等を対象とした修学上の支援策の充実を図るため、フェローシップ及びTA(ティーチングアシスタント)やRA(リサーチアシスタント)としても活用できる競争的資金の拡充等を図るべきである。

(3) 大学教員の質の向上

大学教員について、一定期間ごとに適性や資質能力を厳正に審査する仕組み(特に教員の教育活動についての評価を行う仕組み)及びそれを教員給与などに反映するような仕組みを導入すべきである。

また、「テニュア・トラック制」や「一回異動の原則」の導入の推進、若手教員に対するスタートアップ支援等の取組を行うべきである。

(4) 大学改革の推進

高等教育の質的向上を図るため、大学改革の努力とともに基盤的な経費が確保されるべきである。その際、評価に基づく国立大学法人運営費交付金の配分や私学助成の補助効果を考慮した重点配分の推進を図るとともに、世界一流の人材の育成と先端研究を推進する施設等の基盤を強化すべきである。あわせて、国公私立を通じて競争原理に基づく資源配分を充実すべきである。

また、奨学金による意欲・能力のある個人に対する支援や寄付税制の充実等を図り、多元的な財政支援システムを構築すべきである。

(5) 大学の教育機能の強化と産学連携の推進

大学における教育機能の強化を図り、社会にとって有為な人材を輩出するために、大学の評価制度を有効に活用するとともに、厳格な成績評価の導入などにより「出口管理」の強化を推進し、あわせて、学生への就職サポート機能を強化させるべきである。

また、産学が人材の育成・活用に関し、建設的な協力体制を構築し、産業界等社会のニーズを反映したカリキュラムの改善、実践的なインターンシップの実施、ものづくり分野等における専門職大学院の活用、技術と経営を理解できるMOT人材の育成などの取組や人材交流を積極的に展開すべきである。このため、大学と産業界との情報交換の場を設けるべきである。

4. 企業における人材育成・確保

企業における競争力ある人材の育成・確保を促進するため、人材投資促進税制、ものづくり等におけるOB人材の活用など企業における人材育成・確保に対する支援を強化していくべきである。特に、中小企業の人材育成・確保を重点的に支援していく必要がある。

また、博士号取得者等の理数系を目指す人材の裾野を拡大するため、企業は優れた研究者・技術者を幹部クラスで処遇するよう努めるべきである。

III.競争力を支えるインフラの抜本的強化

1. 総合交通・物流ネットワークの整備

国際競争力を維持・強化するための基幹的インフラとなる陸・海・空にわたる総合交通体系を実現することが必要である。このため、ハード・ソフトにわたる総合的な施策を講じて、国際拠点港湾・空港の整備や管理運営の効率化、これを効果的に連結する高速道路・鉄道網など基幹的交通ネットワークの整備、交通結節点における連携強化などを一体的に推進すべきである。

とりわけ、経済のグローバル化が進み、特にアジア地域が一体的な経済圏となる中で、物流ニーズの高度化・多様化に適確に対応するため、迅速・円滑・効率的な国際物流システムを実現することが必要である。このため、新たな総合物流施策大綱を早急に策定すべきである。

具体的には、国際拠点港湾・空港の整備・管理運営の効率化を図るため、スーパー中枢港湾や東アジア主要港湾との航路に対応したサプライチェーン・ゲートウェイ港湾の整備、大都市圏拠点空港の整備を推進すべきである。また、拠点港湾・空港へのアクセスの改善、交通渋滞の解消、国際標準のコンテナが積み替えなしで走行可能な道路ネットワークの構築を図るため、ボトルネック区間に対する重点的取組を推進すべきである。さらに、拠点港湾・空港の低コスト化・サービス水準向上を図るため、24時間オープン体制を早急に実現するとともに、手続の簡素化・標準化・電子化、コスト削減・リードタイム短縮等を図るべきである。

また、インターネットEDI、ICタグ等の標準化と普及を推進し、物流におけるIT化を広く進めていくべきである。

さらに、我が国の物流企業の国際物流事業の拡大・展開を促進するため、必要な規制の見直しや輸送力の拡充のための措置を推進すべきである。

2. ITインフラ整備、利活用促進と次世代IT領域での優位性の確立

ITインフラは、概ね世界最高水準のものとなったが、利活用は未だ不十分な状況にある。企業におけるIT利活用は、国際競争力強化の重要な要素であり、その飛躍的導入が必要である。

インフラに関しては、電波について、割当制度の運用において、有効利用のインセンティブが働く環境を整備するとともに、今後は、電波の二次取引市場の実現、割当に代わる公共財としての電波利用の実現(コモンズの導入など)を目指していくべきである。また、ユビキタス社会の基盤を支える最先端の技術、例えばPLC(電力線搬送通信)、UWB(超広域帯無線)の早期実用化を図るため、電波法関連の規制を早急に緩和すべきである。

IT利活用に関しては、抜本的な業務改革や新たなビジネスモデルの導入を促進し、企業の潜在力をITにより引き出すとともに、情報セキュリティの確立を実現するため、IT投資促進税制の充実・延長等によりIT投資を加速的に促進すべきである。また、組込みソフトウェアをはじめとしてソフトウェアの規模・複雑さが著しく増大していることにかんがみ、ソフトウェア開発人材の質・量両面の向上を図るとともに、IT利用企業の人材育成を促進すべきである。

また、情報家電のネットワーク化、医療・教育のIT化を促進するとともに、個人情報の保護、情報漏洩の防止などを強化しつつ、ICタグ、EDIなど効率的かつ高信頼なIT基盤の構築を促進すべきである。

さらに、日本のIT産業においては、現在の垂直統合型の全面展開を見直し「選択と集中」を追求することが必要である。同時に、次世代をにらんだ世界最強のインフラ・プラットフォームの構築や、国際優位を確保できる独自の技術・素材・デバイスシステムの開発を産学官連携のもとに国家プロジェクトとして進めることが必要である。加えて、携帯・デジタル家電・ICタグ等個別製品での強みを生活分野、ビジネス、行政、社会的課題等各分野のソリューションでの強みに高めていくことが競争優位を維持する上で緊急の課題である。

3. 資金調達・金融制度の整備

金融行政は、これまでともすれば、金融機関の不良債権処理、検査監督の厳格化に重心が置かれてきたが、今後は、検査監督の信頼性・効率性の向上を図りつつ、我が国金融産業・金融システムの国際競争力強化に重心を置くべきである。すなわち、新たな金融商品・金融手法の開発による金融イノベーションに向けた金融機関の取組の促進、リスクを市場で流通・吸収させる貸出債権の流通市場の整備など新たな金融・資本市場の発展拡大の促進、金融機関の海外展開の円滑化など金融機関の国際競争力強化のための環境整備を重視するとともに、金融機関自らも国際競争力強化のための取組を強化していくべきである。また、投資サービス法制については、投資家保護の適正化とリスクマネー供給の拡大のバランスを確保しながら、具体的な制度設計を進めるべきである。

また、我が国のイノベーションを担う企業に対する資金供給を円滑化するための制度・仕組み作りを進めることが必要である。具体的には、動産担保融資の促進や融資先企業の技術や将来性等に着目して担保に過度に依存しない融資の促進、電子債権法制の整備等、企業の資金調達手法の多様化が可能になる環境を整備するとともに、エンジェル税制の活用拡大、エンジェル投資家と企業を結びつけるネットワークの充実等のベンチャー企業へのリスクマネー供給の円滑化を図るべきである。加えて、留保金課税を廃止するなど、企業の自己資本充実等による財務基盤の強化を促進すべきである。

加えて、我が国産業の国際的な事業展開を金融面から支援するため、アジア諸国等との経済連携協定や投資協定等の交渉において、現地国内の金融サービス、資金移動に係る規制等の見直しを働きかけるとともに、アジア債券市場の育成や貿易・投資円滑化支援等の地域金融協力を一体的・戦略的に進めるべきである。

4. 政府調達の活用

政府調達をベンチャー企業等の新規事業の初期市場を確保するために活用することが重要である。このため、WTO協定上随意契約が認められる場合には、各府省は、透明性及び説明責任の確保を前提に、随意契約を積極的に活用し、ベンチャー企業等から優先的に調達するよう努めるべきである。また、競争入札を行う場合にも、ベンチャー企業等が不当に不利な扱いを受けることのないよう、企業規模、営業実績等の入札参加要件の緩和を検討すべきである。

情報システムの政府調達については、各府省において民間コンサルタントの積極的な活用を図るなど、効率的な調達体制を強化すべきである。さらに、情報システムの効率性・信頼性の一層の向上を図るため、オープンソースソフトウェアを積極的に活用すべきであり、そのための指針を早急にとりまとめるべきである。

5. 頭脳流入の円滑化

海外から優秀な研究者や留学生などの高度人材を確保することは、我が国の国際競争力強化にとって重要な課題であり、海外からの高度人材確保のための環境を早急に整備すべきである。

このため、魅力ある研究環境の整備、高度人材に係る在留資格や短期滞在要件の緩和、在留期間の延長(技術者・研究者や優秀な留学生の永住権取得条件の緩和、留学生の就職活動目的での在留期間の延長、技術者・研究者の実務経験年数の短縮など)を実施すべきである。

また、産学官共同のプロジェクトにより、海外からの人材の発掘・活用、留学生の日本での就職支援等を実施するとともに、居住環境の整備や子弟の教育の場の確保等、生活環境の整備を進めるべきである。

6. 雇用関連法制の見直し

雇用関連法制について、我が国の国際競争力強化の観点から、必要な見直しを行うべきである。

具体的には、大学や企業の研究者、技術者など創造的・専門的能力を発揮し自律的な働き方をする人材については、労働時間規制の対象から除外すべきである。

7. 対外経済政策の強化

我が国は、貿易、投資に関して相互依存関係の深いアジア等との経済連携協定等を一層促進し、我が国からの主要輸出品目の例外無き関税撤廃を通じた製品輸出拡大を実現するとともに、投資・サービスの高度な自由化及び海外事業環境整備を通じた我が国企業の海外事業円滑化及びそれによる投資収益の拡大を図るべきである。これらを実現するとともに、我が国の低生産性部門の生産性向上を図るためにも、経済連携協定の中において、我が国市場の積極的な開放を行うべきである。

また、経済連携強化に資する産業人材育成、中小企業振興、IT関連分野や、資源・エネルギー分野などで、ODAをはじめとする対外政策ツールを戦略的に活用すべきである。

さらに、総理を始めとする政府要人が外国を訪問する際に産業界要人が同行するなどの戦略的・効果的なトップセールスを実施することや、在外公館が日本貿易振興機構(JETRO)等とも連携しながら本邦企業支援のために現地政府への働きかけを強化するなど、海外市場拡大等のために官民一体となった取組及び体制整備を推進すべきである。

8. その他の経済環境の整備

上記のほか、我が国が国際競争力を維持・強化するため、以下に掲げるインフラ、経済環境を整備すべきである。

(1) 企業が経営資源の機動的かつ有効な活用を図り、「選択と集中」に主体的に取り組むことができるよう、企業法制の充実、企業結合規制の見直しなど独占禁止法の見直しを行うべきである。

(2) 産業競争力強化に向けて研究開発・人材・設備投資を促進するための税制措置(研究開発促進税制、人材投資促進税制、IT投資促進税制の充実等、留保金課税の廃止、減価償却制度の見直し等)を講じるべきである。

(3) 中国等アジア地域におけるエネルギー需要の拡大等を踏まえ、資源エネルギーの低廉かつ安定的な供給を確保するため、省エネルギー・新エネルギー対策、原子力の推進、天然ガスシフトや、石油・天然ガス権益の確保などの総合的な資源戦略を推進すべきである。

(4) 環境問題については、環境ルールについての国際標準化を主導して我が国企業の国際競争力強化につなげる取組を促進するとともに、地球温暖化対策を始めとする環境対策を進めるにあたっては「環境と経済の両立」を大原則とし、諸外国と比較して我が国産業の国際競争力が著しく損なわれることがないよう留意すべきである。

IV.産業の国際競争力強化

1. 新産業創造、ものづくり

新産業創造戦略

我が国の伝統・文化に裏打ちされた真摯な「ものづくり」の姿勢やきめ細かな「もてなしの心」、お互いの信頼関係に基づいた「擦り合わせ」など、我が国産業の持つ「強み」を更に伸ばし、新産業の創造を目指す「新産業創造戦略」を着実に推進していくべきである。

同戦略にある燃料電池、情報家電、ロボット、コンテンツといった高付加価値型の先端産業群と健康・福祉、環境・エネルギー、ビジネス支援サービスといった社会ニーズの拡がりに対応した産業群等を戦略分野とし、政策資源を重点的に投入してその育成を図るべきである。

また、同戦略の施策の更なる具体化を図ろうとする「新産業創造戦略2005」を推進し、我が国産業の強みの源泉である「高度部材産業集積」とこれを支える基盤技術を有する匠の中小企業群の強化に重点的に取り組むべきである。あわせて、我が国産業の強みを支える基礎となる人材の育成や技術の革新等を更に進めるとともに、これらの知的資産の重要性が経営や市場で適切に認識・評価されるための開示及び評価の指針を策定する等の環境整備を行うべきである。

コンテンツ

特に、コンテンツについては、我が国文化芸術を世界に広めるという意義にもかんがみ、積極的に国際競争力強化に取り組むことが必要である。

近年、我が国の映画やアニメといったメディア芸術などのコンテンツは、諸外国で高く評価されるとともに、一層の関心が寄せられている。この分野に重点投資を行うことにより、多様で良質なコンテンツの創造を図るとともに、これを海外に発信していくべきである。このため、産学官連携による人材育成、国際的な共同制作や人材交流などを通じた国際展開の促進、権利処理の円滑化などを通じたインターネット配信環境の更なる整備等を積極的に進めるべきである。

2. 農林水産業

農業

農業が競争力ある産業として自立・発展できるようにするため、経営マインド・経営能力のある担い手農業者(法人経営・大規模家族経営等)が活動しやすい環境の整備を更に推進すべきである。

また、生産資材や物流に係るコストの低減を図るため、農協の意識改革・事業改革を推進するとともに、産地から量販店・食品メーカー・外食産業への直接販売を推進すべきである。

さらに、地域の農業・食品関連産業の連携によるクラスター形成やそれを円滑化するコーディネート人材の育成等により地域ブランドの育成・確立を促進すべきである。

また、東アジア経済圏の経済発展等の中で、農業の輸出産業化を本格的に進めるため、輸出ニーズに対応した産地作りや、在外公館、JETROや商社等の機能も活用した海外市場の開拓を積極的に進めるべきである。

水産業

水産業について、最新の科学技術を活用して養殖振興や水産資源管理を行うとともに、価格が産地で安く消費地で高いといわれる国産水産物の流通システムを抜本的に見直すべきである。

森林・林業

京都議定書を踏まえた地球温暖化防止を図る上でも重要な森林・林業については、川下のニーズを十分考慮した上で輸入品より優位な国産材の生産・流通・加工システムを構築すべきである。

3. 医薬・医療

我が国医薬品産業の国際競争力強化を図る上で、新薬に係る治験や審査の体制が大きな障害になっている。このため、治験の円滑な実施について抜本的改善を図るため、ナショナルセンターに集中的に治験を実施する施設を設置すべきである。また、迅速な審査を実現するため、新薬に係る審査体制を抜本的に強化すべきである。さらに、臨床研究基盤を早期に整備するとともに、基礎研究成果の臨床応用、実用化に直結する研究を強化すべきである。

電子カルテなど医療におけるITの活用やその相互運用性確保により効率的な医療システムの構築を図るとともに、地域における多様な主体の連携強化や医療機関等による民間手法を活用した経営革新を促進すべきである。

4. 観光

日本の観光資源の国際的な魅力を高め、積極的に対外発信すること等を通じて、観光の国際競争力を抜本的に強化する必要がある。

我が国には、独特の観光資源の魅力(海山などの景勝地や文化遺産が近接して存在し、それらが南北に長い国土に多彩に点在していること、また、世界最先端の研究施設や高効率なものづくり工場などの産業観光資源に恵まれていることなど)や、諸外国に比べての治安の良さがある。加えて、地域で継承されてきた文化財や伝統芸能、新たな文化芸術活動などの地域の文化資産も世界の人々を魅了する源泉となりうる。観光資源の魅力を高める観点からも、これら地域の文化資産の形成・充実を総合的に支援すべきである。

こうした我が国の観光資源の魅力を海外に発信するため、観光ガイドブックや映像媒体を作成し外国の有力な書籍出版・販売事業者や放送事業者に提供することによって、外国の一般市民に積極的に紹介するとともに、外国人による訪日観光に対するニーズ把握をきめ細かに行うべきである。このため、政府における対外情報発信・収集体制を強化し、様々な海外ネットワークを活用しながら積極的に取り組むべきである。

また、外国人観光客のニーズを踏まえ、我が国の持つ観光資源を活かした魅力的な旅行企画を行う旅行業者や地域の関係者による積極的な取組を促すべきである。さらに、それが出来る人材が必要であり、海外で日本人観光客招致のために働きノウハウを有する日本人や、日本にも通じ企画に経験豊富な外国人等の活用を促進するとともに、訪日観光に関する企画ノウハウを有する人材を育成すべきである。あわせて、観光統計の体系的整備、査証免除対象国・地域の拡大や在外公館における査証発給手続きの簡素化・迅速化・透明化などに取り組むべきである。