衆議院議員 福島2区(郡山市、二本松市、本宮市、大玉村
掲載 : 週刊 東洋経済 2003年10月11日号「論点」
2003.10.09

成果は確実に現れている! 小泉構造改革への「誤解」を解く

改革は“再繁栄”への分水嶺

要点

  1. 小泉改革の本質は抜本的なシステム改革にある。道路公団や構造改革特区など各論を突破口に、大改革のうねりを起こしている。
  2. 不良債権処理のみならず産業再生にも果敢に取り組む。中小企業も「借換保証制度」や創業支援法制で積極的に支援。
  3. 改革は「官から民へ」、「国から地方へ」の観点に立ち、自助と自律の精神を基本とした豊かで安心感のある社会をめざす。

小泉政権の構造改革路線、つまり「小泉改革」が進んでいるのか、いないのかについて、侃々諤々の議論が繰り広げられている。

だが、「改革が遅れている」という主張の中には、趣旨を取り違えたり、一部を曲解して取り上げたりということが多すぎるように思える。

小泉純一郎首相のシンプルな説明が誤解を招いている面もあるが、小泉改革が常に政治的緊張を生み、どうしてもその評価には政治的な思惑が絡みがちになる、という側面があることも否定できない。

しかし、日本経済が置かれている状況を考えると、時間を浪費している余裕はない。小泉改革をきちんと理解したうえで、これが足りない、ここを補強すべきだ、といった具合に前向きの議論をすべきである。本論は、議論の土台とすべく用意した。

まず小泉改革の第一の特徴は、抜本的な日本のシステム改革に取り組んでいることにある。小泉改革の本質は、戦後私たちが水や空気のように当たり前としてきた旧来のシステム、あるいは発想を根本的に転換することにある。

経済構造改革、行財政改革然り。司法制度改革、知的財産制度改革、そして、食の安全構造改革(食品安全行政の見直しも構造改革である)も然り、である。

二つめの特徴は「総論賛成、各論反対」のテーマに果敢に挑み、各論を突破口に改革の実を上げていること。郵政改革や道路関係公団改革もこれを突破口に財政投融資改革は不可避となる。構造改革特区もそうだが、まず小さな風穴を開け、より大きなシステム改革へとムーブメントを起こしていく「風穴突破主義」が小泉流の構造改革である。

三つめの特徴は、「聖域なき構造改革」。多方面にわたる改革を、例外を設けず同時並行的に進めている点である。

民間設備投資の復調など、停滞を続けてきた経済のエンジンに力強さが加わり、四―六月期の成長率や月例経済報告の上方修正、平均株価の急回復などの形で構造改革の成果が現れている。小泉改革は、着実に進展している。

マクロ政策も大胆かつ柔軟に

経済の再生・活性化の観点からいえば、構造改革の狙いは経済の体質強化、つまり供給サイドの改革を進めることで中長期的に潜在成長率を高め、日本を元気にすることにある。

構造改革は経済成長の必須条件であり、「構造改革なくして成長なし」である。が、デフレ下での構造改革は容易ではない。効果がデフレによって減殺されるからで、構造改革と並行してデフレ退治にも取り組み、景気を自律的な回復軌道に乗せるためのマクロ政策、すなわち「大胆な金融政策と大胆かつ柔軟な財政政策」が欠かせない。

デフレは貨幣的現象なので、早い段階で金融政策を総動員すべきだったが、当初、デフレに対する日銀の認識が甘く、量的緩和策に踏み切るタイミングが大幅に遅れた。

しかしその後は、日銀当座預金残高目標が当初の六倍にも膨れ上がるなど、金融の量的緩和策を継続・強化。特に福井俊彦氏が総裁に就任後は、資産担保証券購入策を打ち出すなど、積極的で柔軟な対応が目立つようになっている。

一方、財政政策については、合計一二〇兆円もの景気対策を繰り出した1990年代のような超積極財政は採り得ない。とはいえ、2001年度、02年度と二年連続で補正予算を編成し、今年度の税制改正でも国・地方合わせて一兆八〇〇〇億円の先行減税を実施したように、デフレに立ち向かうためには、今後とも大胆かつ柔軟な対応が必要だ。

わが国のように土地と株に深く組み込まれた経済の場合、地価や株価が下がると、途端にバランスシートが傷み、経済活動が停滞しやすくなる。この資産デフレ現象を克服するには、日銀による潤沢な資金供給の下で資産を流動化させる対策が効力を発揮する。まず不動産の証券化を促進する策として、不動産特定共同事業や定期借家権の導入など法制度・関連制度を着々と整備。不動産投資信託(REIT)の東証上場銘柄は、初上場から二年で七銘柄(時価総額七〇〇〇億円弱)を数え、徐々にではあるが裾野を拡大している。

不動産の証券化も、97年度の六二億円(九件)から、02年度には二兆八〇〇〇億円(三五一件)へと大幅に増加、実績をあげている。

一方、土地流動化策としては今年度税制改正で、土地の有効利用促進に関する土地流通税の大幅軽減に加え、相続税・贈与税の一本化措置を導入。都市再生法に基づく画期的な都市再生スキーム導入や金融・証券税制の大幅軽減・簡素化など、証券市場活性化策にも取り組んでいる。

不良債権処理は順調に進展

バブル崩壊後の日本経済に重しのようにのしかかっている不良債権問題の抜本的解決も、小泉政権にとって最優先の課題だ。昨年10月に決定した総合デフレ対策の中で、主要行の不良債権比率を04年度には現状の半分程度に低下させ、問題の正常化を図るとの目標を打ち出した。

今年3月期の主要行の不良債権残高は二〇・二兆円。半年前より三・七兆円減っており、不良債権比率も八・一%から七・二%へと〇・九ポイント低下。このペースで進展すれば「現状の半分程度に」との目標の達成は可能だろう。

不良債権処理をはじめ金融再生はこのように着実に進展しているが、さらに加速するには表裏一体の関係にある企業の過剰債務問題、つまり産業再生(企業再生・事業再生)にも同時に取り組む必要があり、政策対応が急ピッチで進められている。

強い産業を蘇らせるためには、まず企業再編や事業再生をしやすくする法制度を整備する必要があり、純粋持ち株会社の解禁や株式交換制度の導入、会社分割法制の導入、金庫株の解禁などの企業法制を整備した。このうち会社分割については、創設(01年4月)から二年間で一〇〇〇社以上とかなりの効果を上げている。

また、民事再生法の制定や会社更生法の抜本改正など再建型倒産法制の整備、整理回収機構(RCC)での企業再生部門の設置、政府系金融機関による事業再生資金融資(DIPファイナンス)、日本政策投資銀行による企業再生ファンドへの出資など、事業再生を可能とする諸制度も「欧米以上」といわれるほどに整備が進んでいる。

環境整備が進めば産業再生も進む。過剰設備や債務を抱えた企業の経営再建を支援する目的で99年に施行された「産業活力再生特別措置法(産業再生法)」の認定件数は、改正前の今年3月までの約三年半で二〇四件に上り、RCCが扱う企業再生案件(今年3月末)も、実施案件一一〇、企業再生候補案件三一六と実績を積み重ねている。

また、政府系金融機関のDIPファイナンスも四九件・二七五億円(昨年末)、政策投資銀行の企業再生ファンドへの出資も一四件と実績が上がりつつある。鳴り物入りで発足した産業再生機構も、九州産業交通や三井鉱山などを第一陣の支援企業に決定するなど、ようやく目に見える形で動き出した。

前述した産業再生法は、企業に対し事業の選択と集中を促す狙いから制定されたものだが、法改正(今年4月施行)により巨額投資が経営を圧迫する装置産業の事業再編を促すスキームなどが加わり、産業再編を視野に入れた法体系へとレベルアップされた。

中小企業も積極支援

小泉政権の構造改革路線には、日本経済の屋台骨を支える中小企業の再生と創業を支援するスキームも組まれている。小泉政権は意欲のある中小企業を積極的に後押しする。

何よりも大事なことは、中小企業が安心して事業を営むことができるようにするための金融セーフティネット(安全網)の整備だ。取引先企業や金融機関の破綻などに直面している中小企業を支援するセーフティネット保証・貸付は、創設から今年7月末までの二年半で、貸付が約一七万一四二〇件(約四・二兆円)、保証が約二一万三四〇〇件(約三・五兆円)に上り、中小企業の下支え役をしっかりと果たしている。

また、借金を一つにまとめてリスケジューリングし、それに対して保証を行う「資金繰り円滑化借換保証制度」は、今年2月の補正予算で措置。半年間で約二一万七八〇三件(約三・三兆円)の実績を上げており、同時期に追加された金融機関の合理化に伴うセーフティネット保証と合わせると約三〇万件(約四・七兆円)まで利用されている。

一昨年末に創設した「売掛債権担保融資保証制度」も有効に機能している。「金融検査マニュアルのせいで中小企業が潰される」という歪んだ状況を是正するため、中小企業版検査マニュアルも新たに作成した。

一方、産業再生機構の中小企業版ともいえる中小企業再生支援協議会の創設(今年2月)や中小企業向けDIPファイナンスの創設など再生支援体制も拡充。DIPファイナンスは今年7月末で一五一件(一三五億円)と実績が出始めている。

中小企業の創業支援体制も拡充が図られている。中小企業挑戦支援法が今年2月に施行され、資本金一円でも会社設立が可能になったが、申請件数は既に六〇六二件(8月1日現在)に達し、設立が認められた件数も四一九五件に上っている。

創業支援については、国民金融公庫による新創業融資制度(無担保・無保証、貸付限度額五五〇万円)の創設やエンジェル税制の拡充措置なども講じられ、このうち融資制度は五八一五件(一八五億円)の実績を上げている。

産業創生でモノ作り大国復活

さらに小泉改革では、日本がまだまだ優位を保ち得る重要技術や重要産業に思い切った対策が講じられている。まず総合科学技術会議の下で、「科学技術創造立国」を目指し戦略的な観点から基礎研究を強化。第二期の科学技術基本計画(01年度〜05年度)では、約二四兆円の投資目標を掲げ、今年度予算には一兆二三〇〇億円の予算を計上した。

税制改正では、製造業に研究開発や前向きのIT投資などを促す狙いから、年間一兆三〇〇〇億円規模の競争力強化・経済活性化減税を実施。法人税収が一〇兆円の時代に一割強の減税措置である。産業創生への小泉政権の力の入れようがお分かりいただけるだろう。

一方で、「知的財産立国」への取り組みも強化。小泉改革では、知的財産戦略本部を設け、特許やノウハウ、映画・ゲーム・ソフトなどのコンテンツといった知的財産を国富の源泉として最大限に活用すべく取り組んでいる。

また、大学の頭脳を生かした産・学・官の連携を後押しすべく、大学発ベンチャー一〇〇〇社計画や、TLO(技術移転機関)の枠組みの整備、兼業規制の緩和、地域クラスター計画などの支援策を講じている。大学発ベンチャーの数は95年度の六二件から02年度末には五三一件と大幅に増加。TLOについても、特許出願件数が二九四五件(02年末)、実施許諾件数が五九七件(同)と右肩上がりだ。

「豊かな内需」にも着目している。急速に進む少子高齢化に対応した、きめ細かな生活サービス産業の振興を図り、雇用を創出。今年六月に決定した「五三〇万人雇用創出プログラム」を踏まえ、サービス分野を中心に雇用創出に取り組む。

民間にできることは民間に委ね、民間の力を最大限引き出し、経済社会を活性化させる。小泉政権下ではさまざまな構造改革が進展しているが、最も根本的な改革が規制改革だ。

規制緩和が行われた分野では、供給者側の創意工夫が生かされ、航空運賃の自由化により全国どこでも一万円といった割引サービスが続々登場するなど、消費者は安くて質の高い商品やサービスを購入できるメリットを享受している。

規制改革はふつう全国一律に実施するわけだが、これを地域限定で実験的に実施し、結果が上々なら全国レベルに拡大していこうという試みで進められているのが、「構造改革特区」。地域の知恵と工夫、つまり地方自治体のアイデアを基に地区を限って規制を緩和するという仕組みだが、大変な成果を上げている。そして何よりも重要なのは、地方が前向きに動けば国も変わる、という前例が積み上がってきていることだ。

もちろん、今後も特区制度を巡る国と地方の軋轢が予想されるが、地方が主体的に物事を考えていくという流れは強まりこそすれ、弱まりはしないだろう。構造改革特区は、まさに規制改革の優等生である。

要諦は「官から民へ」

「官から民へ」の基本的な考え方を基に、民間にできるものは民間に委ね、簡素で効率的な質の高い政府を実現。行財政改革の要諦を一言で表現すればこういうことだろう。

財政構造改革では、2010年代初頭にはプライマリーバランスの黒字化を目指すという目標の達成に向けて経済財政運営を実施。「官から民へ」、「国から地方へ」の観点に立ち、制度・政策を抜本的に見直し、歳出規模や国債発行額の抑制に努めている。「国と地方」の改革では、国庫補助負担金・税源配分の見直し・地方交付税の「三位一体の改革」や、「平成の大合併(市町村合併)」の取り組みが進展している。

社会資本整備の大幅な見直しも進んでいる。公共事業の再評価により02年度までの五年間で計二六八事業が中止になり、01年度までの五年間で実際の工事費も一八・四%削減されるなど実績が上がっている。

国民が安心して将来を設計できる社会を築くには、持続可能な社会保障制度を確立する必要がある。04年度年金制度改革については、厚生省の社会保障審議会・年金部会が意見書をまとめ、年末の政府案決定に向けて制度論議が本格化する。

急速に進む少子化への対応策も重要な課題。小泉首相が折に触れて言及する待機児童ゼロ作戦や育児休業制度、次世代育成支援などについて様々な施策が講じられている。

雇用のセーフティネットも「安心」を確保する上で重要な課題だ。若年層の就業を後押しするための総合対策「若者自立・挑戦プラン」を策定。教育・雇用・産業政策の連携を強化するとともに、産・学・官が一体となって人材育成や就業機会の創設などに取り組むことになった。

なお、前述した取引先企業や金融機関の破綻などに直面している中小企業を支援するセーフティネット保証制度が、倒産と失業の増加を抑える役割を果たしており、中小企業の倒産件数も一二カ月連続のマイナス(前年同月比)と減少傾向にある。

小泉改革は、特大花火ばかり打ち上げていると誤解する向きもあるが、実はこれまで述べてきたように地味な政策の集大成だ。地味だが、具体的な政策の積み重ねが大きな効果を生むのである。

世界最速で進む少子高齢化などを考えると、改革のために私たちに残された時間は少ない。今後数年間が決定的に重要だ。明治維新でも終戦後でも、国民の意識改革が伴った。「第三の開国」といわれる今だからこそ、国民全体が問題意識を共有し、問題の解決に取り組む必要がある。

そして目指すは、自助と自律の精神を基本とし、共助で支え合う、暖かみのある、豊かで安心な社会だ。国民がこの国に生きることに誇りを持ち、世界の人々にとっても魅力のある国づくりである。

追いつけ追い越せ、のキャッチアップの時代は遠い過去になった。人類共通のテーマについて世界に先駆ける、世界のフロントランナーを日本は目指すべきだ。日本の未来のために、国民全体が問題意識を共有し、難局に立ち向かう気概を持てるかどうか。わが国はいま、繁栄か、衰退かの分水嶺に差し掛かっており、構造改革なくして成長、いや日本経済の再生はあり得ない。