60年ぶりの「国会討論」を行いました。
3月13日、午後の衆議院本会議で、政府が提示した日銀正副総裁の国会同意人事案の採決に先立ち、各党による賛否の討論を行いました。自由民主党、公明党を代表して、私が、政府の人事案に賛成する立場から討論を行いました。同意人事案をめぐる国会代表討論は、1948年3月以来、実に60年ぶりとのことです。与党席からは大きな喝采が、野党席からは騒音のようなヤジがあり、相当に力の入った討論ぶりになりました。 私の討論の全文は以下の通りですが、こちらでもご覧戴けます。
日本銀行総裁など同意人事に対する賛成討論
衆議院・本会議
自由民主党の根本匠であります。
私は、自由民主党及び公明党を代表し、日銀総裁等の人事案件につきまして、賛成の討論を行うものであります。
以下、賛成する主な理由を申し述べます。
その第一の理由は国会同意人事の制度的性格によるものであります。
国会同意人事は、内閣に対し独立の地位を有する機関、中立性が求められる合議制機関等の構成員を任命することについて、国会の同意を必要とする制度であります。任命権は政府、すなわち行政府に属するものであり、三権分立及び議院内閣制の趣旨からすれば、法案や条約の審査、総理の指名といった立法府の本来の機能とは異なり、国会の役割はあくまで行政に対するチェック機能を果たすことにありますしたがって、両議院は、政府の任命権を尊重し、政府の人事権の濫用を防ぐためにやむを得ない場合にのみ不同意とするなど抑制的に権限を行使すべきものであります。本件については、不同意の合理的理由が全く見当たりません。
賛成する第二の理由は、武藤氏が日本銀行総裁に最適の人材であるということであります。
元財務事務次官の武藤氏は、いわば「財務省そのもの」であり、いわゆる「財金分離」の観点から、武藤氏が日本銀行総裁となることは不適当、と民主党は主張しております。
しかしながら、「財金分離」は、中央省庁改革の際、財政政策と金融監督、金融行政の分離という意味で使われたものであります。その点では、日本銀行の金融政策と直接の関係はなく、中央省庁改革で旧大蔵省から金融庁が独立した時点で解決済みであります。
本件は、むしろ日本銀行の独立性の問題と考えるべきであります。ただし、日本銀行の独立性については、改正後の日銀法第三条により、独立性が確保され、かつ金融政策の決定は合議制の機関である政策委員会に委ねられ、独立性については確実に担保されております。
したがって、日銀総裁及び副総裁の人選に際しては、出身母体や経歴にとらわれず、「中央銀行の司令塔として職責を全うし得る人物か否か」という観点から行うべきだと考えております。現に、欧米では、財務当局経験者が就任する例が少なくありません。
武藤氏は、一昨日の所信聴取において、「日本銀行の独立性をしっかりと確保していく」、「一〇〇%日銀の立場でものを考えてきた」、「与えられた職責に忠実に全力をつくすことが自分の職業倫理」と述べるなど、日銀の独立性を規定した日銀法の趣旨に則って職責を果たしていく決意を明確に示されました。
また、武藤氏の五年間の日本銀行副総裁としての実績がこれを証明しており、国際会議への出席など国際経験も豊富であります。内外の金融市場の状況が極めて厳しい中、安定感もあり、次期日本銀行総裁として最適の人物であります。
国会同意人事案件については、第一の理由の制度的性格の観点からさらに、従来より「総理指名と異なって、政治的な要素を含まない」とされてきた経緯があります。武藤氏は、日銀総裁に最適の人物であるにもかかわらず、財務省出身というだけで端から不同意では、まさに党利党略であり、到底納得できません。
賛成する第三の理由は、日本銀行総裁及び副総裁の候補者三名は、最適の人材となっていることであります。
民主党は、三名のうち、副総裁候補の白川方明(まさあき)氏のみを同意するとの判断を示しております。しかしながら、白川氏は、福井総裁及び武藤副総裁の下で、金融政策担当の理事を務め、金融政策の枠組みを構築する上での理論的支柱となった人物であります。武藤氏に対し、日本銀行副総裁として低金利政策を進めたこと等を批判している民主党が、武藤氏の下で、理事として執行部を支えた白川氏の副総裁任命に同意したことについては、一貫性を欠くものと言わざるを得ません。
また、副総裁候補の伊藤隆敏氏は、国際的にきわめて評価の高い、一流の経済学者であって、改革意欲に富む、優れた人材であります。伊藤氏は、所信聴取において、金融政策の透明性確保や向上の重要性を強調しており、なぜ伊藤氏が否定されるのか到底理解できるものではありません。
武藤氏、白川氏、伊藤氏には、それぞれに、今日日銀に必要とされる十分な資質を持ち合わせており、武藤総裁を中心とするとき、更に高い総合力を発揮できる人選であります。是非とも、三者一体として評価していただきたいと考えております。
以上、本案に賛成する理由を申し述べました。
最近の報道等を見れば、内外を通じて、今回の人選は、適切なものとして評価されております。なかでも武藤氏については、市場関係者を中心に、その経験・実績や、バランスのとれた判断力、安定感が高く評価されております。その意味で、いわば、政府が提示した三名は、新聞各紙の論調からも明らかなように、「世論」の後押しを受けた候補ということができます。
これに対し、民主党の対応については、これを強く批判し、こうした事態を招いた責任の多くは民主党にあると指摘し、参議院第一党としての、冷静かつ責任ある対応を求めております。
本件が与野党間の政争の具とされ、日銀総裁が空席となることへの国民の懸念は非常に強く、そうした事態となれば、「日本売り」の材料となることは必定であります。
政治的な思惑を捨て、国民の声に十分耳を傾け、最適の人材を任命することが我々議員の責務であります。提示された三名について速やかに本院の同意が得られることを求めるとともに、与野党協議を通じ、空白が生じないよう、野党諸君の冷静なる判断を求め、私の賛成討論とさせていただきます。